時々行く小さなお店がある。初めの頃、顧客名簿らしき大学ノートを出されたので、そこに私が自分で名前を書いた。
その後、店主は私を「楠本さん」と呼ぶようになった。名前なんて何でもいいやと聞き流した。本名を名乗り電話で注文した時も「楠本」と思い込んでいた。この店に来ると、むずむずと落ち着かないが別人になりすますスリルを楽しんでいたのも事実だ。とうとう言い出せないまま数年がたってしまった。
先日、LINE(ライン)の連絡先を交換しませんかと言われた。これはもう逃げられない。実は私、楠田です。
宮崎県延岡市 楠田美穂子(64) 2021.7.17 毎日新聞鹿児島版掲載漢字
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