はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

愁い

2014-11-01 07:16:11 | はがき随筆
 「おお、来たなア」と84歳のKさん。いつも笑顔で迎えてくださり、ヘルパー冥利に尽きる。
 奥様を亡くされ、1人暮らし。折々に娘さんが好物を携え、訪ねて来ると笑みがこぼれる。経済的不安もない。
 だけど寂しい。「誰か、いない?」といつもの冗談。「いませんねぇ」と、ふざけて首を振ると「ワッハハ」と笑われる。
 1人の夜の孤独は否めず、その気持ちはよく分かる。施設にいる義母も、そして母、いとおしい家族もだんだん遠くなる。しんしんと更ける秋の夜は、母の顔やKさんの寂しげな笑顔が交錯し、愁いは尽きない。
  出水市 伊尻清子 2014/10/26 毎日新聞鹿児島版掲載

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