はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ツワブキの花

2014-11-01 06:49:59 | 女の気持ち/男の気持ち
 風にあおられた葉の陰から、拳を突き上げる形でツワブキの花芽がのぞいている。
 この花にひかれたのは亡夫の赴任地、種子島の茎永でのことだ。ロケット発射が初めて成功した年、太平洋の荒波に浸食された奇岩にしがみつくようにしながらも、輝くように咲いているのを見た。3人の子どもを連れて浜遊びを楽しんだ幸せな日々だった。
 十数年後、夫は急逝し、悲しみにくれて、かめ酢で有名な福山町を訪れた。ツワブキの町と聞いたからである。錦江湾や桜島に向かって咲き誇っていた。
 12年前、母の介護のため実家に帰ることになった。 
 よし、ツワを植えようと決め、ぼつぼつ移植していった。
 春になると「ツワをちょうだい」と友だちがやってくる。夏と冬は緑色の葉がいい。秋は待ちに待った花の時。
 「阿久根市の市花って知ってた? なんであんな花が市花かね」などとぼやいていた人も、花の様子を見に来るようになった。
 隣町の長島町は町をあげてツワ・ロードを作っている。
 「見に行こうか」
 「行こう行こう」
 「町民が優しいんだよね」
 「リーダーがいいのよ」………。
 いろいろなことを良いながら、「私たちも植えようか」と、一人また一人……。ツワブキファンが増え始めている。
  阿久根市 別枝由井 2014/10/26  毎日新聞の気持ち欄掲載

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