はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

水仙が揺れていた朝

2019-05-23 11:48:38 | はがき随筆

 

 「おばさんは、鯵の握り鮨を全部食べたらしいよ」。いつになく夫の声が明るかった。

 おばさんとは、わが家が数十年来親しくしている人だ。

 夫が釣った鯵をすぐさばいて、私が握った鮨を車で届ける。

 「誰が、こんげな旨いもんを食わせてくれるやろうか?」。その度に老夫婦でよろこんでいると聞いていた。

 それから半月過ぎた頃に、おばさんの訃報が入った。

 その日の朝は、黄色いラッパ水仙がかすかに揺れていた。

 柔らかい風に吹かれて、甘い香りが漂っていた。

 宮崎市 津曲久美(60) 2019/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載


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