携帯の着信音。「抗がん剤が効かなくなってさ。女房と水入らずで信州の温泉だよ」。がんは他の臓器へ転移していると聞いた。今のうちにあちこち旅するとも。「だってさ、たまには落ち込むだろう?」「ないね」。こともなげに言う。「若い時さ、土地を買いたいって、オマエに借金申し込んだことあったよな。頭金の50万」。忘れたと友は言う。実際は借りずに済んだ。「本当にありがとな。今でもずっと感謝しているよ」。遠く離れて住むが、やつのことは忘れない。「この次また会おうや」。果たせるか分からない約束をしてケータイを切った。
霧島市 久野茂樹 2012/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載
霧島市 久野茂樹 2012/11/12 毎日新聞鹿児島版掲載
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