はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆10月度

2013-12-07 15:56:18 | 受賞作品
 はがき随筆10月度の入賞者は次の皆さんです。(敬称略)

【月間賞】13日「独りじゃないよ」小幡由美子(79)=鹿屋市寿
【佳作】1日「久多島」田中健一郎=鹿児島市東谷山
   △19日「母の後ろ姿」小向一成(65)=さつま町宮之城屋地


 ひとりじゃないよ かつての職場の食堂を、ご主人とこっそり使わせてもらっていると、やはり退職後の顔見知りと出会った。従業員の人たちも含めて、旧交を温める場を提供してもらえる食堂への感謝の気持ちが、素直に表現されています。その奥に、孤独を癒してくれる人と人とのつながりがあり、そこからくる安心感がうかがい知れる文章です。
 久多島 吹上の浜沖合の無人島の、村と村との所有権争いにまつわる伝説、その島を目印に引いた子供の時の地引き網の思い出、それらを懐かしんで吹上の浜を語る内容です。歴史の中に現在の美観を置いてみると、異なる風景が見えるくるかもしれません。
 母の後ろ姿 子供の時母親と一緒に、乾かした稲を自宅に運び込み、脱穀していた思い出が語られています。子供は母親の背中を見て育つとは、よく言われることですが、文字通り小柄な母親の背中の稲の束を見て育ち、今、かつての農作業の厳しさについてある種の感慨を抱いている内容です。
 この他、優れたもの3編を紹介します。
 一木法明さんの「しょろトンボ」は、お盆に先祖の霊を運んでくるといわれる精霊トンボが、国内での羽化ではなく、南方から毎年飛来する種だということを知り、いよいよ、畏敬の念を抱いたという内容です。こういう知らないことを教えてもらえる文章は貴重です。伊尻清子さんの「郷愁」は、週末に来る孫のために、鍋いっぱいカレーを作ったのに、来ないという。子供の頃は、カレーはご馳走で、一家団欒の象徴だった。今は母も1人暮らしだし、また、孫は来てくれないし、さてたくさんのカレーは。カレーの匂いが秋の夜長の郷愁を感じさせます。山下恰さんの「百舌鳥日和」は、秋冷の候、早朝の散歩、澄んだ空気の中での鋭い百舌鳥の高鳴き、通りがかりの老人の「百舌鳥日和ですね」の一言。印象派の絵画でも観ているような、美しい情景が文章になっています。それにしても「百舌鳥日和」とは美しい言葉ですね。
  (鹿児島大学名誉教授 石田忠彦) 
  2013/11/30 毎日新聞鹿児島版掲載
 

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