はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

はがき随筆6月度

2020-07-29 14:10:45 | 受賞作品
はがき随筆6月度

月間賞に島田さん(宮崎)
佳作は川畑さん(宮崎)
種子田さん(鹿児島)
竹本さん(熊本)

はがき随筆6月度の受賞者は次の皆さんでした。(敬称略)

【月間賞】 17日「懐かしい題名」島田千恵子=宮崎県延岡市
【佳作】 6日「こころないうわさ」川畑昭子=宮崎市
▽13日「友達だったの?」種子田真理=鹿児島市
▽3日「時の記念日」竹本伸二=熊本市東区

 「懐かしい題名」は、NHK・BSの番組で火野正平が何気なくアメリカ小説の題名を口にしたこと、その本が子息の本棚にかつてあったこと、今は単身赴任中の子息との電話でのやりとりと、三つの時を平滑につないで洗練されています。子息の反応が「なに、それ?」だったとしても、あの小説の熱風のごとき青春期があったことを、必ずや思い出したことでしょう。
 右の作品にも触れていますが、私たちは、新型コロナウイルスの流行に翻弄されています。「こころないうわさ」には、幼い頃赤痢にかかってしまい、山奥の病舎に隔離された経験が、忘れがたい記憶として綴られます。その時の家族の苦衷、とりわけ母に残ったという罪悪感と屈辱感の深刻さが、抑制された筆致から切実に伝わってきました。現在、感染の流行に関して無責任なうわさが拡げられ、いわれのない非難が感染者に向けられることもあると聞くにつけ、忘れがたい一遍です。
 「友達だったの?」は、東京在住の頃、偶然公園で目にしたカラスと猫の姿を、軽妙に映し出しています。争い、遊び、睦み合いのいずれとも見えるふるまいに、彼らを「ふたり」と呼ばずにはいられない筆者の目の温かさが印象に残ります。
 「時の記念日」は、80年前の小学6年生の時に、授業で時の記念日にちなむ標語を書かされた回想です。児童たちが、一様に大人びた標語を提出したなかに、Y君は「まだ早いが遅刻のもと」と書いて優賞を得たというエピソード。このできごとが今なお鮮明に記憶されていることに、感動すら覚えます。借りものでない自分の言葉で表現することの大切さを伝えることは、なるほど教師の使命です。
6月度に選んだのは、記憶や回想にまつわる作品でした、記憶の想起は、人が意識し意図してなすものではありません。何をどのように思い出すかは、その人の今を現している、そんなことを改めて考えた6月でした。
熊本大学名誉教授 森正人

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