はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2人の母と

2010-12-14 18:24:17 | 女の気持ち/男の気持ち
 すれ違いを修復できぬまま、母は7年前に旅立った。
 4人姉妹の長女で、婿を取れと言われた母は教師の道をあきらめ、職業軍人の父と見合い結婚した。終戦後、2人で小さな商いを始めたが、うだつは上がらなかった。夫婦のいさかいが絶えず、父を見限った母は息子の私に自分の希望のすべてを託した。自尊心が強く見栄っぱりで慎みのない母を、私はいつしか遠ざけるようになった。
 不仲の両親を長い間見てきた私は、自分の妻とうまくやることを最優先にしたが、母は必ずしもそれを望んではいなかった。父の死後、私たち夫婦との対立は悪化の一途をたどった。
 妻との結婚で、私にはもう1人の母ができた。彼女は早くに夫を亡くし、私の妻を筆頭に4人の子どもを育て上げた。飾り気のない彼女の前で、私は素直に自分を出せ、気づかぬうちに本当の息子のような気持ちになっていった。
 80歳を超えた彼女は、長男夫婦と浜松に住み、私とよくメールのやりとりをする。話題は専ら私たちの一人娘と2歳になる孫のこと。そして互いに思わしくない体調のこと、新聞に掲載された私の投稿のこと。
 人は子どもを産めば、母親になれるわけではない。まして誰もがマリアのような良き母にはなれない。母と子は互いの力に助けられて成長し合うのだ。
 最近、母の短所を自分に見つけて驚く。嫌だった母と少し近づけた気がする。
  鹿児島県霧島市 久野茂樹 2010/12/9 毎日新聞の気持ち欄掲載

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