はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

別れ

2018-06-07 11:10:01 | はがき随筆
 苦しみのなくなった母の顔。その平穏な顔を何度も撫でる。もう私の体温は届かない。今日は最期の別れの日である。
 故郷を離れ19歳で嫁ぎ、がむしゃらに働いた。親を早く亡くし、その分家族思いだった。帰省すると整然とした室内、手入れの届いた畑に、母の生き様を見る。帰り際には皿いっぱいのおにぎりと漬けものを用意してくれる。まさに〝おふくろ〟を生きた。働き過ぎで体を壊したが、92歳の長寿となり感謝しかない。涙の乾かぬまま床に就く。朝、鳥の声にふと目が詰めた。急いでカーテンを開けると、それは曇り空のかなたへ消えた。
  鹿児島県出水市 伊尻清子 2018/6/7 毎日新聞鹿児島版掲載

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