はがき随筆・鹿児島

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「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

2021年 鹿児島県はがき随筆

2022-03-16 11:02:54 | はがき随筆
 毎日新聞「はがき随筆」の2021年鹿児島年間賞に、鹿児島県湧水町の近藤安則さん(68)の「親捨て」(11月21日掲載)が選ばれた。鹿児島県内からの投稿で21年に月間賞・佳作に選ばれた計16作品の中から、鹿児島大学名誉教授の石田忠彦さんが選考した。

「自責の念」淡々と描く
 例年の通り、月間賞と佳作になった作品の中から、近藤安則さんの「親捨て」を選びました。それは次のような理由によります。
 深沢七郎に「楢山節考」という小説があり、何回か映画化されたりもしましたので、ご存知の方もおいでだと思います。民間伝承の姥捨て伝説を素材にした短編小説で、息子が食いぶちを減らすために、母を山に捨てに行く話です。近藤さんの作品を読み、この小説を連想しました。もちろん状況は全く違っていますので、こういう連想は失礼かもしれませんが、近藤さんの「自責の念」には共通するものを感じました。
 特に、親を施設に捨てたのではないかという心理的こだわりから、ご自分を解放されようとされる苦しみに、非常に重いものを感じました。そのうえで、このような状況は私たちにもいつ襲ってくるかもしれないという、社会問題としても理解されました。
 このほかに、一木法明さんの、私たち独特の端っこ文化を指摘した「端っこ文化」▽中鶴裕子さんの、電話を外すに際しての夫婦の歴史を語った「固定電話」▽野崎正昭さんの「」閉所を恐れて徴兵されても歩兵がいいと考えているうちに戦争が終わったという「閉所恐怖症」▽久野茂樹さんの、自分の俳句がラジオで放送され眠れなくなったという「寝付けない夜」⏤⏤などもそれぞれに個性のある文章で、記憶に残る内容でした。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

「苦しみを文字に」
 受賞作「親捨て」は、昨年7月に亡くなった母との葛藤を記した。「母さんを頼むぞ」との父の言葉を忘れずに長年、同居を勧めたが結局、応じてくれないままだった。
 その母は晩年、高齢者施設で過ごした。最期を見送ったことでほっとした気持ちになると同時に、夜中に目が覚めると自分を責める母の顔が脳裏に浮かび眠れなくなった。介護福祉士の妻に悩みを打ち明けると、在宅介護は家族関係で苦労するケースも多いと慰めてくれた。「苦しみを文字にしたことで、少し楽になった」と明かす。
 東京での個人タクシー運転手などを経て2年前に帰郷。「生きたあかしに」とはがき随筆を始めた。「書いて言葉にすることで、頭の中にあるぼんやりとした思考がはっきりする」。誰もが抱える影の部分に向き合い、憂いを帯びた文体に個性が光る。
鹿児島支局長 石田宗久

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