祖母は生前、妹千枝さんの命日に必ずようかんを供えた。「賢くて優しい子だった」。そう言って合掌する姿がよみがえる。千枝さんは、15歳でスペインかぜで亡くなったという。
ようかんは千枝さんの好物で赤や緑の小さな拍子木形。祖母のたまのお楽しみとも思えた。私は仏壇にすぐ手を伸ばしたいが、祖母が毎回言う「賢くて」が妙にひっかかる。千枝さんの了解を得たくて手を合わせ、初めの一個をそっと引き抜いた。
スペインかぜが引き合いに出る昨今。100年以上前の千枝さんをしのぶのは、今はもう、食いしんぼうだった私だけかも。
宮崎県日南市 矢野博子(70) 2020/4/18 毎日新聞鹿児島版掲載
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