はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

春の風

2008-06-03 17:16:35 | はがき随筆
 春好天、近くの公園へ。桜満色のグラウンドは児童のサッカー練習、家族の散歩、桜を眺める人、走る人、明るい声がとどく。ベンチで深呼吸していると女の子「ミカンを食べてください」。突然のプレゼントに驚き「ありがとう」。尋ねると3年生。近くの芝生で3人で遊んでいる。しばらくして「さっきはおいしいミカンありがとう。お礼に、咲いている桜の名前はソメイヨシノだよ。植樹して8年、同じ3年生の年だよ。覚えていてネ」。帰る途中に後ろで足音がして「教えてくれてありがとう」の明るい声。一瞬、心にうれしい春の風が吹き通る。
   鹿屋市 小幡晋一郎(75) 2008/6/3 毎日新聞鹿児島版掲載

無職

2008-06-02 18:26:38 | はがき随筆
 4月1日から無職である。方々に履歴書を届ける。免許・資格はいっぱい取得しているにもかかわらず再就職の障壁。古希という年齢から、厳しい現実が身にしみる。
 初めてハローワークで手続きをする。2、3回も行くと、係の方の説明で手順の要領も得てくる。希望職種も塾講師、介護職、生活指導員ぐらいである。
 稼働の意欲はあっても年齢制限という王手がかかり、一向に解決のめどもつかない。4月に取得した小学校教諭2種免許証も生かされぬママ、希望も夢もしぼんでしまう。自分自身、なさけなさを感じる今日である。
   出水市 岩田昭治(68) 2008/6/2 毎日新聞鹿児島版掲載

麦秋

2008-06-01 22:38:52 | はがき随筆
 近所の畑で小麦が色づき始めた。名作映画「麦秋」のラストで、黄金色の麦の穂が風に波打つ畑道を、花嫁の行列が行くシーンが思い出される。
 「昔の農家では、春嫁は麦の刈り入れの働き手にするため。秋嫁は米」というのは、その映画で知った。終戦直後には、中学生にも収穫を手伝わせる農繁休暇があったように記憶する。
 初任値の種子島にも麦畑が多かった。学校を休みがちな子がいて、休みの日に訪ねていくと、上手な鳴きまねでメジロを呼び寄せていた。
 集団就職で島を出た彼と数年前、38年ぶりに再会した。
   鹿屋市 上村 泉(67) 2008/6/1 毎日新聞鹿児島版掲載