はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

ヒゲダンス

2020-05-27 17:20:25 | はがき随筆
 志村けんさんが新型コロナウイルスで亡くなった。昔、志村さんが加藤茶と「8時だヨ! 全員集合」の中でヒゲダンスを演じたが、ペンギンのしぐさが面白くて私も練習した。
 同じ頃、会社の忘年会があり隠し芸を披露することになった。先輩は尺八や詩吟を披露したが、私は燕尾服を着て、妻の作った髭をつけて待機した。軽快な音楽がかかり、ヒゲダンスを必死に踊った。場が一斉に盛り上がり、大爆笑となった。OB会に行くと、いい年をしてと言われそうだが、機会があればまたヒゲダンスを演じてみたい。
 鹿児島市 田中健一郎(82) 2020/5/18 毎日新聞鹿児島版掲載

無理の依託

2020-05-27 17:11:54 | はがき随筆
 4月10日、病室3階の窓から満開の桜を見ている。3日、これまでにない大手術を受けた。外見は元気そのものだったが、今回は少し長引きそうなので、入院前日までに播種もの、定植ものを片付け、1回目の追肥まで済ませておかなければ苗が徒長する、後がない状況だった。
 後は作業の手順や方法をメモし、畑で急きょ現場指導した。畑が二カ所に分散しているので、こっちの畑の追肥この肥料で、こっち側にね。収穫予定はこれね。タマネギがおいしいからねと。収穫専門の女房はきっと戸惑っていたに違いない。無理を承知で託す人に託した。
 宮崎県日南市 角俊朗(71) 2020/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載

お空の授乳

2020-05-27 17:01:54 | はがき随筆
 母娘が上空を見上げているが私には何も見えない。聞くと、「娘がクジラが授乳中というので」と母親が上空を指さす。
 横に伸びた長楕円の白い雲が親で、その下に吸い付くような灰色の小楕円の雲が子ども、確かに、映像で見覚えのあるクジラの授乳姿だ。すると、青空を背景にして、ゆっくり流れる親子雲の形が、海原をゆったり泳ぐクジラ親子の姿に思える。
 雲の重なりがクジラ親子の姿に置き換わる、絵本から抜け出したような子どもの豊かな感性に驚く。遠ざかる雲を見上げている女の子、その心にどんな物語が生まれているのだろうか。
 岩国市 片山清勝(79) 毎日新聞山口版掲載

初夏の香り

2020-05-16 12:21:34 | はがき随筆
 すべてが活気づく今日、新緑が目にも心にも映える。桜見て一杯。真に日本の春です。暖冬のせいか、花持ちがよい。黄色い帽子が歩く1年生。私たちも幾多の旅立ちが。よき友、よき人生に感謝です。
 初夏の楽しみとして花植え。毎年ながら同じ花、同じ色とは? そしてプランターでは簡単な夏野菜を植えてみる。男でも朝食のサラダに便利。都会ではできない夢だった。日本の四季は世界一ですね。
 すべてが動き始める時期に、コロナで全世界が自粛するとは。必ず終息すると願いましょう。小さな趣味で毎日を楽しく。
 鹿児島県伊佐市 坂元佐津夫(68) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

母の贈り物

2020-05-16 12:10:51 | はがき随筆
 今日は病院が新しく変わって初の診察だったので、母、妹、私は緊張しながら診察室に入った。101歳の母の診察を終えた先生が「いやー驚きました。いい腎臓を持ってますね。腎臓の力が10あるとするとまだ6の力が残っています」とおっしゃった。私と母は安心して待合室で妹を待った。
 すると妹は先生に「いい腎臓と肝臓をもらいましたね。100歳まで生きられますよ。いいDNAをもらいましたね」と言われたと言った。えっ! ということは私にも同じDNAが。
 母と先生のうれしいお言葉に感謝です。
 宮崎県日向市 黒木節子(73) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

家内へ

2020-05-16 11:58:19 | はがき随筆
 明日からは5月だという日に家内の心肺が突然停止して、日赤病院で応急処置を施したが、生き返ることはなかった。
 全く知らなかった者同士が、一緒に暮らすようになってから、六十余年の歳月が過ぎた。若かった頃は家事・育児など、家庭のことは家内に任せて、私は職務に専念してきた。
 「俺よりも若いのにどうして先に逝ったつや」と遺影に声をかけても返事がない。感謝の気持ちを伝えておくべきだったと後悔してももう遅い。「ありがとうね」と遺影に声をかけたら、「幸せでしたよ」とほほ笑んでいるように見えた。
 熊本市東区 竹本伸二(91) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

応急手当

2020-05-16 11:46:17 | はがき随筆
 仲間から色彩豊かなアジサイを頂き、挿し木していた。3月初旬、冬を乗り越えた何本かが根づき、芽吹いてくれた。
 晴天のある日、布団を干す。干し場の下にアジサイが植わっていることは分かっていたが、取入れ時にポキッと1本折ってしまった。うなだれた茎はかろうじて外皮で持ちこたえている。「ごめんね、どうか無事につなかって」。折れた個所をとっさにガムテープでクルクルっと巻いた。応急手当成功とみえ、葉をつけたまま順調に育っている。今年は無理でも来年は花芽をつけてくれることを願い、毎日回診を続けている。
 鹿児島県指宿市 外園恒子(66) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

赴任の朝

2020-05-16 11:35:45 | はがき随筆
 4月1日。赴任の朝。耳川沿いの県道51号を車で遡上する。崖が道に迫り、空は狭い。小雨が降り続いて空は重く暗かった。3月末に引き継ぎを済ませたが、今度の仕事はこれまでと全く異なるので緊張と不安を胸にハンドルを握っていた。
 突然、空が広がりフロントガラスいっぱいの桜が目に飛び込んできた。雨にぬれ、濃い桃色だ。驚きとその見事さに思わずアクセルを緩めた。車はそのままゆっくりと桜並木を進んだ。福瀬地区のバイパス沿いの桜並木だ。衝撃的な桜のお迎えへの感動が冷めないうちに辞令をもらい、私の新年度は始まった。
 宮崎市 中村薫(54) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

寂しすぎた連休

2020-05-16 11:28:53 | はがき随筆
 緑鮮やかに澄みわたる大空、団地の窓の外には鯉のぼりが風に泳ぎ、初節句を祝った遠い昔を思い出す。みんなが楽しみにしていた連休日、まさかこんな状況になるとは思ってもいなかった。孫、ひ孫たちの訪問もなく、幸い長女と通信できるタブレットで元気に遊んでいる姿を眺め安心し笑顔にもなれる。テレビ、新聞でも「新型コロナ」漬けだ。普段の日常生活に戻れる日はいつなのか。先が見えず不安な日々。戦時中「欲しがりません勝つまでは」の生活だったが、今回は「手を洗いマスクにうがい、集まりませんコロナが消えるまで」と頑張ろう。
 熊本市中央区 原田初枝(89) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

何とはないこと

2020-05-16 11:21:59 | はがき随筆
 また自転車通勤開始。走るのに冷たい風も心地よくなった。緑増す大地。鳥の声も花の香も確か。春は来た。近年増幅する暖冬の異常も、訪れる季節の新しみに紛れ、何事もない好日に環境の事など忘れてしまう。そうなのだろう、人は直近の事に気を取られ、たとえそれがすぐ近くに迫っていようとも気づかない。すでに限界を超えていたとしても……。そこから自然が一気呵成に事をなし、人は何ももう手出しができない時が来るとしたら……。そうなった時でも、宇宙から見た地球は青く美しい星のままなのだろうなぁ。
 熊本県阿蘇市 北窓和代(65) 2020/5/16 毎日新聞鹿児島版掲載

薩長戦

2020-05-15 20:37:22 | はがき随筆
 今を去る30年ほど前にその戦いは始まった。いえ薩摩と長州じゃなく薩摩と長野の文化戦。
 始まりは白みそと赤みそ。薩摩の白みそに対し家内は長野の赤みそ。激しい口論が毎日……。やっと和解したと思いきや絹と木綿に飛び火。夫の木綿に対し絶対に豆腐は絹と言い張る長野。戦いは双方とも疲労に負けて休戦模様。
 しばらく小康状態が続くも昔、薩摩になかった豆腐で再燃。今度は黙って食卓に納豆を出し、黙々と手のついていない納豆を下げる家内の戦術。決裂も妥協もできない薩摩夫の解決策、納豆は嫌いで収束させた。
 鹿児島県 湧水町 近藤安則(66) 2020/5/15 毎日新聞鹿児島版掲載

飛行機雲

2020-05-15 20:29:21 | はがき随筆
 夕方の暗がりが迫る前、ふうっと息を吐き帰路につく。空はまだ明るい。薄紅色に染まるであろう西の雲がきれいた。
 ふと東の方角から3本の飛行機雲が視界に入ってきた。同じ地点を中心にゆっくりとまっすぐ伸びてゆく。なんて見事だ。
 家に着くころにはきっと消えてしまう。すぐに電話をかけ、家族に知らせた。離れていたが、子どもたちの「うわあ」と言う声が聞こえてきた。
 妻がその時の空をSNSに載せた。すると、知人からフレームの違った同じ飛行機雲が寄せられた。空はつながっている。心もどこかでつなかっている。
 宮崎県都城市 平田智希(44) 2020/5/14 毎日新聞鹿児島版掲載

手仕事

2020-05-15 19:51:40 | はがき随筆
 マスクが届いた。姉が丁寧に縫った布マスク。シャツを裁ったダンガリー生地、優しい肌触りのガーゼ。ブラウス地はやわらかい。色柄も多彩でピンクのうさぎ、お握りとタコウインナー柄は和み系。リバティプリントの青は端正で爽やかだ。型を決めて裁断し、ひと針ひと針縫っていく姉の手先、おそらくあの大きな食卓に長い時間座っていたのだろう。その椅子の淡い茶色の木質が目に浮かぶ。首都圏のコロナ緊迫は私の想像を超えている。払えぬ不安を鎮めるためにやっているのよと姉は言うけれど、静かに人を思いながら運ぶひと針は美しく尊い。
 熊本県八代市 廣野香代子(54) 2020/5/13 毎日新聞鹿児島版掲載

感謝、感謝!

2020-05-12 16:18:00 | はがき随筆
 思わず目を凝らす。2月度「はがき随筆」の入選作の発表。なんと佳作に、鹿児島(宇都)とある。心臓ドキドキ、何度も目を凝らす。温かく優しい選者の言葉が心にしみる。短い文章の背景や心情に、こんなに深く読み込んでいただけるかと畏敬の念をいだく。入選作それぞれにくださったご批評は、選者の深い造詣といつくしみと励ましを感じる。選者の大学の教室はさぞ和やかで楽しいと思う。
 毎日新聞の読者のためのこんなスペースに限りない感謝の念と一層の充実を期待。活字離れの今日、ご奮闘を願うのみ。再び選者のお言葉を期待。乾杯!
 鹿児島県 姶良市 宇都晃一(87) 2020/5/12 毎日新聞鹿児島版掲載

蛇助けた優しい生徒

2020-05-11 21:41:54 | 岩国エッセイサロンより
 散歩の途中、2人の男子高校生が、町はずれの道路中央で長い棒きれを持って何か相談している。「どうした?」と声を掛けると、蛇がこのままだと車にひかれて死ぬので助けてやりたい、と言う。
 見れば、数十㌢ほどの蛇が元気なさそうにじっとしている。高校生たちが心配する通り、車が通ればひかれる位置だ。
 相談して道端の雑草の中に移すことにした。棒でつつくが動かない。そこで棒に蛇を引っ掛け、引きずって雑草の中に移した。
 高校生たちは「ヘビは好きではないが、とにかく生き物を助けてやろう」という気持ちだったようだ。2人は「ありがとうございました」と言い残して走り去った。
 蛇といえば大方の人が避ける。でも、2人は「このままでは車にひかれる」と勇気ある行動を起こした。
 新型コロナウイルスの感染拡大で重苦しい日々が続く中、優しい心根の生徒たちに出会い、散歩の足取りも軽く感じた。
 岩国市 片山清勝(79)