はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

生きることの尊さ

2020-05-11 21:32:13 | はがき随筆
 半世紀以上の昔、夫が他界し15歳の息子と二人残された。
 今、世界は新型コロナウイルスにより、多くの人が闘いいまだ終わらずに続いている。私は昔の苦労と今の苦痛とどちらが大変か考える。
 夫の死と時を同じくして地元の鉱山が閉山した。商いで暮らす身は生活の糧を失ったが、今頑張らなければ後がない。
 悲しみは生きることの尊さを教えてくれた。息子にはただまっすぐに育ってほしい。いくら働いても疲れなかった。
 青い山、紺碧の川、忍び音もらす幼い鳥にも癒された。
 今、何を頑張るのか?
 宮崎県延岡市 逢坂鶴子(93) 2020/5/11 毎日新聞鹿児島版掲載

マスクの洗い方

2020-05-11 21:11:15 | はがき随筆
 今まで「使い捨てマスク」と呼ばれていたものは一見素材が紙のように見えるけれど不織布ですから洗えないものか実験してみました。からりと晴れた日を選んで実行開始。まず使用済みのマスクを丁寧に形を整えて、火傷する位の熱湯に衣料用中性洗剤を垂らして1時間ほど浸けておき振り洗いをします(揉み洗いは駄目)あと数回お湯で濯いで日光で干して出来上がり。
 みんなに見せましたが誰も未使用の物と見分けられませんでした。ヘルパーさんにも伝授しました。介護事業所に各自1枚ずつ配られたアベノマスクよりずっと良いと言っています。
 熊本市中央区 増永陽(89) 2020/5/10 毎日新聞鹿児島版掲載

夕日と甘い風

2020-05-11 20:51:14 | はがき随筆



 キンギアナムが咲いている。カミさんが毎年少しずつ株分けしたもので、それほど数はないが、それでも白とピンクの花が甘い香りを放つ。洗濯物を取り込んでいたカミさん、「ここまで甘い香りが漂ってくるわよ」
 午後5時半も過ぎ、夕日を背に受けて帰路に就く看護師さんたちが「あら、甘い香りがするわよ」「ホント、いい匂い」と口々に言いながら通りすぎた。
 向かい側のオガタマは花弁を散らし初めてはいるが、香りはまだまだ健在、キンギアナムと甘い香りを競い合っているかのようだ。そして、ニオイバンマツリが次の出番を待っている。
 鹿児島県西之表市 武田静瞭(83) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

もう少しは

2020-05-11 20:32:11 | はがき随筆
 もう少しは生きたいしな。
 そんな夢を見たことを思いだした。つい先日、裏山の茂み切りや家周りの草取りをして疲れていた夜だ。母も妻もこの家から病で去り、寂しさの心情もあったのだろう。それに連日のコロナ感染者の方とそれに伴う不幸の方々のご冥福を祈る毎日なのでもある。特に医療従事者の方々の苦労、心労には頭の下がる思いなのである。
 中でもマスク不足の解消が最優先課題だろう。私は当初から、不織布マスクを洗浄し、殺菌も考え、15分煮沸し乾かしてアイロンし、再使用している。煮沸にも十分耐え重宝だ。
 宮崎県延岡市 前田隆男(82) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

「渡邉」考

2020-05-11 17:32:18 | はがき随筆
 「わたなべ」という姓は全国に分布し、数の上でも上位にランクされるのではなかろうか。それだけに「邉」の字体も「辺・邊・邉」など多様で、よく「わたなべのなべの字は?」と聞かれる。「べの字ですね。冠の下はハロです」と答える。「邉」に「なべ」という読みはなかろう。
 「目な尻」(眦・まなじり)、「目な子」(眼・まなこ)、「手な心」(掌・たなごころ)などの「な」は、格助詞「の」の古形。それに準じると「渡邉」は「渡な邉」で「渡し場の辺り」ということになろうか。
 先祖は渡し場の辺りにでも住んでいたのだろう。
 熊本市中央区 渡邊布威(82) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載
















ツワブキ

2020-05-11 17:24:31 | はがき随筆
  家内が田舎の百均市場でツワブキを買った。皮をむくのは小生の仕事である。なぜなら認知症の予防になると、手を動かしなさいと任命されているのである。しかし、晩酌にツワの油イタメを食べる楽しみもあるからだ。ツワブキの花は秋から咲いており、山登りの下山時、それを見ることは、達成感と共に何故か安堵感を与えてくれるのである。花は豪華ではないが、健気に咲いた花に心が癒されるのであろう。
 新鮮で若いツワブキのある野山を知っているので、新型コロナに負けないように出かけてみよう。
 鹿児島市 下内幸一(70) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

娘は還暦

2020-05-11 17:17:38 | はがき随筆
 3歳ごろの娘が初めてエレベーターに乗ったとき「へえ~」とたまがった声を出し、周囲の人を笑わせていたっけ……。
 当時、保育園勤務の私は娘を自転車の後ろに乗せての通勤だった。出掛けの家の戸締り確認は娘の仕事で「大丈夫だよ!」のひと声で出発だ。小学生にもなると下校時に私の仕事場に顔を見せて「お母さん、お米は2合ね」と炊飯器にセットする夕飯の手伝いもしてくれた。
 早いものでその娘も還暦を迎える。コロナ騒動で不安な日々だが、一人暮らしを気遣い、毎日のように声を掛けてくれる。
 「ありがとうネ」
 宮崎市 田原雅子(86) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

子育てがしたい

2020-05-11 17:10:29 | はがき随筆
 もう一度あの頃に帰れるなら、ぜひやりたいことが一つある。娘の子育てをみていて羨ましく思っている。専業主婦だからそうできるのだと納得していても、それだけではないようだ。子育てを楽しんでいるかに見えて仕方がない。夏は川で時間を気にせず水遊び。友達感覚の会話が多い。私の子育ては3交代の仕事をしながらで余裕など皆無。必死で一日が過ぎていった。体調が悪い時は自分の事で精一杯。宿題なんて半端にしか見なかった。次男坊はよく忘れものをして校門まで走らされた。退職して随分たつ今こそ完璧な子育てができる気がするのだが。
 熊本県八代市 鍬本恵子(74) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ひめくり

2020-05-11 09:54:00 | はがき随筆
 月が改まり「さあこれからだ」と気合十分の一日を始める。一夜開けると「つまずいたって良いじゃないか人間だもの」。このほほ笑ましい展開には、楽な姿勢になれる。「良いことはお蔭さま、悪いことは実から出た錆」とくると、反省を覚えたり、自然の営みに目を凝らしたりして、精神のバランスをとっている。おかげで単調になりがちな老いの日々にメリハリがついてとても満足。だからかつて子からのプレゼントの日めくりを飽くことなく使っている。
 改めて諸行無常を学び、生活がマンネリ化しないよう心しているこの頃です。
 鹿児島県鹿屋市 門倉キヨ子(83) 2020/5/9 毎日新聞鹿児島版掲載

ピンクがお好き

2020-05-11 09:42:16 | はがき随筆
 春分の日、桃色の上着に靴の格好で2歳の孫が車を降りた。庭の濃い桃色のチューリップに「ピンク、可愛い」とにっこり。
 御飯の後、母親の茶のペットボトルに飛びついた。「可愛いピンク、さくら」とはしゃぐ。桜が描いてあるボトルを見てはお菓子を口に入れる。側面を回し繰り返す仕草は花見のようだ。
 墓へは坂道だが足取りは軽く大人に負けてない。大声で「さくら!ピンク、可愛い」と散り始めたヒカンザクラを指さした。
 あちこちで桜が咲き誇り春らんまん。車窓から見える桜にご満悦で、保育園の通園がご機嫌であるだろう孫を思う。
 宮崎県串間市 武田ゆきえ(65) 2020/5/8 毎日新聞鹿児島版掲載

ミニ旅

2020-05-06 11:12:49 | はがき随筆
 新型コロナウイルス禍で外出自粛が叫ばれ、ストレスはたまるばかり。そんなある日、熊本県央の山都町で熊延鉄道写真展が開かれているのを知る。電話で尋ねると会場閉鎖はしていないとのこと。勇んで車を走らせる。
 半世紀以上前に姿を消したローカル私鉄の写真に懐かしい知人の姿も見える。この町まで鉄道は来なかったはずなのに、との疑問を抱いていたのだが、「熊本と延岡を結ぼうとの狙いがあった鉄道。懐かしむ見学者が多いですよ」との係の方の説明に納得。国の要請を無視した形になったが、いい気分転換ができたミニ旅。
 熊本市東区 中村弘之(83) 2020/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載

今年の春は

2020-05-06 11:02:56 | はがき随筆
 我が家の庭にも暖冬の波が押し寄せて河津桜が2週間も早く満開となり、3月に入ると若葉がおおい春の息吹を感じる。
 早い春を感じとったツバメは、2月末には巣に戻ってきた。暖冬を謳歌するものがあれば、対応に苦慮するものもある。寒さが苦手なぼくにとって春は早いほどいい。桜の便りが伝えられると浮き浮きしてくる。今年はどこの桜で春を実感しようかと想像するからである。ところが新型コロナウイルスが居座り猛威を振るう早春なのだ。人込みははばかられる。カミさんと渋茶でも飲みながら庭を眺めるしかないのかしら。寂しいな。
鹿児島県志布志市 若宮庸成(80) 2020/5/5 毎日新聞鹿児島版掲載

桜の季節に

2020-05-06 10:46:41 | はがき随筆
 家の前の満開の桜が、吹く風にハラハラと花を散らす。
 「年年歳歳花相似たり」という。が、桜にとっても、今年くらい寂しい年はなかっただろう。
 新型コロナウイルスが楽しい季節に、大きな影を落としている。都市圏では、緊急事態宣言が出された。
 しかし、近所の散歩までは規制されていない。友人を誘う。誰かと話したかったといい、手作りのマスクを持参してくれた。
 いつ収束するか分からぬ見えざる敵に不安は募る。正しい情報で、正しく恐れるべきだとか。せめて手と心を掛けた食事と十分な休養で、今を乗りきりたい。
 宮崎市 川上久子(71) 2020/5/4 毎日新聞鹿児島版掲載

2020/05/05

2020-05-05 07:17:00 | 岩国エッセイサロンより
新型コロナウイルスに感染しないよう、気遣いしながら毎日を過ごしている。
 そんなある朝、白みかけた東の空を見た。少しも珍しいことではなかった。だがその時、なぜか何とも言えぬすがすがしさを覚えた。ふと「朝はどこから」の歌が頭に浮かんだ。
 それは昭和21(1946)年、敗戦で疲弊した国民を励まそうと、新聞社が募集したホームソングの1等当選歌だった。
 NHKのラジオ歌謡としても流れていた。それで聞き覚えたのだろう。私は今も口ずさめる。
 歌詞は、朝はどこから、昼はどこから、夜はどこから来るかしら、と問いかける。朝は「希望の」、昼は「働く」、夜は「楽しい」家庭から来る、と答える。
 終戦直後、物資や食料不足により大変な苦しみがあった。私も親から話を聞いて、子ども心に記憶した。詞の中では伏せられているが、人の絆が明るい家庭をつくると言うように思う。戦後の立ち上がり、国を作るのは社会の最小単位である家庭であり、その大切さを教えていたのではなかろうか。
 しかし現代社会では、働きたくても働けないという深刻な状況がある。生活の基盤が無いことになる。特に若い人には切実な問題である。働けなければ楽しい夕げはとれない。気掛かりのある目覚めでは、朝だといっても希望は湧かない。
 新型コロナの感染拡大で経済の先行きが案じられてならない。力強い対策を望んでいる。


梨の木

2020-05-03 11:40:23 | はがき随筆
 耕作が放棄されている畑の緑に毎年、つる植物に覆われてしまう木があった。何の木か分からないが木も辛かろうと、この冬につる植物を根元から切り払い、枯れ枝なども切ってすっきり樹形にしてやった。
 すると、春を迎えて、木は白い花をいくつも咲かせた。「何の花だ?」と思い調べてみると、梨の花であった。切り払った大きいつる植物の根元は、直径が10㌢以上もあった。梨の木は、長年花を咲かせることができなかったのだろう。
 今朝も白い花が朝陽を受け輝いていた。さて、実がなるだろうか、楽しみである。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2020/5/3 毎日新聞鹿児島版掲載