はがき随筆・鹿児島

はがき随筆ブログにようこそ!毎日新聞西部本社の各地方版に毎朝掲載される
「はがき随筆」は252文字のミニエッセイです。

バプテスマ記念日

2020-09-13 15:14:30 | はがき随筆
 6月23日で、私が教会に入って30年になった。以前、別の教会に通っていたが、そこを離れていたとき、義父が末期がんで余命1カ月と告げられた。
 「死んで終わりではない」という一言を、私は義父に言ってあげられなかった。
 それは私の中にずっと残り、私が入る教会を祈り求めた。祈りは届き、ある夜2人の宣教師が、わが家の戸をたたいた。
 バプテスマ(洗礼)を最初反対していた夫も、3年後の再検討を条件に許してくれた。
 3年後も、そして30年後も夫はその日を忘れており、私は今も教会に通っている。
 宮崎県延岡市 渡邊比呂美(63) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

ピース

2020-09-13 15:08:00 | はがき随筆
 白い大きな体をゆらしてピースが走って来る。こんばんは!
 夫と私に順番に体中で喜びをぶつけてくる。ピースは7歳のゴールデンレトリバー犬。金曜の夜、私たちの散歩コースにやって来る。人懐こくて賢い犬。決して吠えない。人間が大好きなので番犬にはならないとお姉さんは笑う。時には犬の苦手な人にも近づいて行ってはお叱りを受ける事もある。
 今夜は2人の若い女性に囲まれてちぎれんばかりにシッポを振っている。「犬も若い人の方がいいのかなあ」「当然だろう。ピースはオス犬だぞ」と隣で声がした。
 熊本県天草市 岡田千代子(70) 2020/9/12 毎日新聞鹿児島版掲載

目覚め

2020-09-13 14:59:14 | はがき随筆
 毎朝5時起床の主人が「おはよう」。7時開店のコーヒー店に朝一番に行きたいのだ。週3回、「コーヒー飲みに行こう」と、元気に誘ってくれる。
 夜中寝つけず、ゴロゴロ本を読んでる私は「まだ早いわー。今から寝たいのに……」。しかし、気合で起きる。車のエンジンをかけて余裕で待ってくれている主人。ちょちょっとメークしてやっと乗り込む私。
 5分後、店に着いた。入り口も開け放たれて涼しい。店員さんは「おはようございます」。笑顔の接客は百点満点! コーヒーの香りに包まれて幸せ。だんだん目が覚めてくる私です。
 宮崎市 鶴薗真知子(57) 2020/9/11 毎日新聞鹿児島版掲載

感染症で思うこと

2020-09-13 14:52:06 | はがき随筆
 私が小学校に入学の頃、父は肺結核で長期入院中であった。その間、母は3人の子供を抱えどうして生活を支えていたのだろうか。
 小学生の兄が点滴をしている記憶が残っている。兄は赤痢にかかっていたのである。当時、両親は子供に生水、生ものを口にさせなかった。
 姉は幼い頃破傷風で亡くなったと聞いている。両親は姉のことを語ろうとしなかったので、詳しいことは知らない。
 当時は、小児まひ(ポリオ)や日本脳炎にかかる子供もいた。みんな感染症を恐れながら懸命に生きていたと思う。
 熊本市北区 岡田政雄(72) 2020/9/10 毎日新聞鹿児島版掲載

猿害

2020-09-09 14:22:23 | はがき随筆
 軽トラを止めて農家の人が、猿の被害はなかったかと言われる。聞けばトウモロコシやカボチャ、ナスなど自宅用に作っていたのをごっそりやられたと。
 我が家も4月初め、カボチャの苗2本を無農薬で育て、3個がなった。そろそろ収穫しようと梅雨晴れを待っていて、いざ畑に行ってみると敷きワラだけが残っていた。ナスも被害に。
 後であちこちの被害が伝わってきた。全体では相当な量になろう。Мさん宅では屋根に上がって見張っていたとか。脇にカボチャなどを抱えて逃げていく姿を想像すると、おかしくもある。
 鹿児島県霧島市 秋峯いくよ(80) 2020/9/9 毎日新聞鹿児島版掲載

艶肌美人のプレゼント

2020-09-08 15:14:10 | はがき随筆
 草一本取ったことのなかった娘が「初の作品」と野菜を持参した。3人の親となり、子育てに仕事にと忙しい中、3本がやっとの花壇にナス、キュウリ、トマトを植えたという。
 見事な艶肌に器量良しのナス2本、傷一つない太めのキュウリ3本。「キュウリは小さいほうがおいしいよ」と言うと「我が家は人数が多いから太らせて取るの」と笑わせた。
 この日は父の日。夫は「これがプレゼントかな」と笑っている。
 娘の無農薬野菜は格別の味がする。親ばかなれど花マル10個、娘に進呈だ。
 宮崎県串間市 安山らく(69) 2020/9/8 毎日新聞鹿児島版掲載

チューベローズ

2020-09-08 15:06:50 | はがき随筆
 娘が私を誘い村の道の駅へ出かけた。店の外で花を抱いてきた男性が容器に入れていた。
 「珍しか花ね」。娘が立ち止まって指を指した。50㌢ほどの茎の上部に紫蘭の形に似た白い花が咲き、その花の上に十数個のつぼみがついていた。
 「それは何という花ですか」。娘が聞くと男性が「チューベローズです」と答えて「夕方になると強い香りを出すから、日本名は月下香。香水の原料ですよ」と説明してくれた。
 よほど気に入ったとみえて娘は5本購入した。帰って言われた通り花瓶に生けた。暗くなると確かに芳香が漂い始めた。
 熊本市東区 竹本伸二(92) 2020/9/7 毎日新聞鹿児島版掲載

泥のスパイク

2020-09-06 09:45:32 | はがき随筆
 泥のスパイクはけなげな思い出が詰まっている。家の下駄箱で、泥と汗の混ざった鼻をつくような匂い。亡夫は高校時代、野球選手にあこがれた。勉学よりも好きな野球に青春を謳歌した。汗と泥と涙と魂の結晶。バットで尻をたたかれ、厳しい試練の日々の積み重ねがうかがえる。泥のスパイクは何にもかえられない。底の金具もせんべいのごとくすり減り、つま先もつぶれた。ひもはクモの巣の糸状に伸びきった。苦しい時はスパイクさんに味方してもらった。長年ご苦労さま。心より感謝。大空に羽ばたく少年は実業団への野球の未来を歩んだ。
 鹿児島県姶良市 堀美代子(75) 2020/9/6 毎日新聞鹿児島版掲載

新型コロナ

2020-09-05 22:37:26 | はがき随筆
 新型コロナ感染がこわい。3月から自粛自制により夫婦の楽しみである温泉めぐり、旅行など皆無である。
 7月後半、コロナ感染者がものすごい勢いで増加した。病気療養中の娘の通院がとても心配である。娘の家族は娘にうつしてはならぬと神経を使い、外出規制している。私も気をつけているが怖さは増している。
 また、コロナの影響で老人ホームにいる99歳の母の面会ができず残念だ。人生最後の時であるこの今の母に逢いたい。
 一日も早く、コロナ感染拡大がやわらかくなることを切に願っている。
 宮崎市 濱元カズ子(70) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ロスの三線

2020-09-05 22:28:10 | はがき随筆
 私には琉球・奄美の血が流れているのだろう。三線の音を聞くと五体に沁み渡る。にぎやかな曲では心が躍り、静かな曲にはしみじみとする。
 もう幾昔も前、ロスアンゼルスに留学し、日系人経営の大きな下宿屋に逗留していた。そこの大方の住人は日本からの出稼ぎのガーデナーだった。窓の下を酔っ払いが野太い声で歌って行く。そんな中、一階の遠い部屋から三線の透き通るような音が流れてくる。おそらく沖縄出身の方が故郷をしのんで奏でておられたのだろう。
 異郷で聞いたその音色は今でもよみがえってくる。
 鹿児島市 野崎正昭(88) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

精霊様トンボ

2020-09-05 22:20:38 | はがき随筆
 お盆も過ぎたのに、酷暑の日は終わりそうにない。今年は異常に早く、精霊様トンボを見つけたので、何か変と思いながら、子供の頃を懐かしんでいた。
 お盆が近づくと、たくさんのトンボが、庭を低く飛ぶ。私はそのトンボを竹ボウキを持って追いかけるのが楽しかった。
 そばで見ていた祖父がきまって「そんトンボは、とったらいかんど、精霊様を乗せて帰って来っとじゃかい」と言っていた。
 祖父は末息子を20歳の若さで戦地で亡くし、遺骨も帰らなかった。そんな祖父の悲しみも分からなかった遠い夏。私はトンボと無邪気にたわむれていた。
 宮崎県日南市 永井ミツ子(72) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

ホトケノザ

2020-09-05 22:08:57 | はがき随筆
 夕日をあびてまぶしそうに駆けてきた3歳の息子。「ハイ! 母ちゃんにあげる! キレイだけんとってちた!」「これ母ちゃんにくれると?」「うん!」「ありがとう」。濃いピンクのかわいらしい花をつけたホトケノザだ。あたたかい気持ちになった。「かわいいお花ね。徹心君もかわいい!」と抱きしめた。ホトケノザの小さな花をキレイと思える心を持ってくれた事に喜びを感じた。
 小さなコップにさして、テーブルの上に置いた。
 雑草として普段気にもとめていなかった野草が、息子のおかげで愛おしくなった。
 熊本市南区 紫垣明子(37) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

エール

2020-09-05 22:00:28 | はがき随筆
 庭の紫木蓮に今春も赤紫色の花がいっぱい咲いた。社会はコロナ禍で自粛生活の中でも、我が家に季節感を届けている。
 花を見て妻が「木蓮も彼岸花も花が咲いている間は葉は出ない。葉が出るときは花が咲いていない」と話した。なるほどと納得したが、今年の木蓮は違った。花は散り、やがて葉が茂ってきた。すると茂みの中に赤紫の花が二十数輪咲いている。異変に近所の木蓮を見て回ったが、どこも咲いていない。木蓮の花言葉「自然への愛」は、コロナ感染でざわつく今、自然汚染を考慮してという人間性へのエールなのかもしれない。
 鹿児島県出水市 宮路量温(73) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

うちわと蚊帳

2020-09-05 21:51:58 | はがき随筆
 連日、まるで地球が怒っているような暑さ。家の中ではクーラー、扇風機がフル稼働だ。
 子どもの頃、我が家には、クーラーはもちろん扇風機もなかった。でも暑くてたまらなかった、夜寝付けなかったという記憶はない。あったのは、数本の「うちわ」そして「蚊帳」。暑い時は自分でうちわをあおいで涼んだ。夜は蚊帳を張り、戸を少し開けて寝た。地球は優しく自然の風はちょうど良かった。
 そういえば、昼寝する時、母がうちわであおいでくれた。自然の風に、母の思いがこもっていたのか、すやすやと眠ることができた。
 宮崎県日向市 福島重幸(67) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載

コロナ禍の夏

2020-09-05 21:45:14 | はがき随筆
 8月も半ばを過ぎると、あんなに騒々しかったセミの声も聞こえなくなった。でも、暑い! 
 コロナと熱中症の予防対策だとクーラーの効いた部屋から外を見ている。外出できずに春は草取りばかりしていた庭に、百日草や久留米けいとうの花が咲く。涼し気にチョウがひらひらと舞う。今年はアゲハが多い。
 ちょっとばかりの風に揺れる花。涼しい部屋にいると、外もそうなのかと錯覚する。
 でも一歩外に足を出すと焦げるような暑さだ。間違ってはいけない。コロナ禍の中で戦っているいろんな人がいるのだということを。
 熊本県宇土市 岩本俊子(71) 2020/9/5 毎日新聞鹿児島版掲載