絵話塾だより

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2021年7月3日(土)文章たっぷりコース第16回め今期最終の授業内容・高科正信先生

2021-07-06 21:10:08 | 文章たっぷりコース
今期2020年度の文章たっぷりコース、この日が最終回でした。
前のイラストの授業の講師・安齋肇さんが東京から乗った新幹線が大雨で遅れたため、このクラスも1時間遅れで始まりました。
オンライン受講や見学の方もおられたのに、なんだか不完全な授業になってしまい、申し訳なかったです。



というわけで、この日はすぐに本題に入りました。
前回配布された、高田大介の『図書館の魔女―烏の伝言』(講談社文庫)の「識字」という章を交代で音読して、高科先生お気に入りのファンタジー巨編に触れていきました。
作者の高田氏は印欧語が専門の言語学者だということもあり、漢字がたくさん出てきて難しい文章ですが、読み進めるうちに少し慣れてきたような気がします。



物語の舞台は架空の国ですが、言葉についての記述がありました。
一人の登場人物は、文字の組み立て方に問題があってうまく喋ることができず、
仮名は書けないけど本字(漢字のようなもの)なら書けるというのです。
仮名はその文字単独では意味をなさず、「さ」と「か」と「な」を合わせてやっと「さかな」という概念になるけれど、漢字だと「魚」一字で「さかな」の概念になるので、彼にとっては仮名より漢字の方が習得しやすい、という理屈です。

今日の授業では、人が言葉を認識してそれを文字と結びつけ、人がどうやって言葉を獲得するかという
このコースの最初のところに立ち返ってみたかったと先生はおっしゃいました。



その後、長田弘の『読書からはじまる』(ちくま文庫)から
・言葉は言葉がすべてではない
・必要なのはどういう言葉か
・「・・・のように美しい」
・言葉は器量である
というところを見ていきました。。



外国語は分からなくても、顔の表情や身ぶりで、その人が楽しいのか不機嫌なのか困惑しているのかはある程度伝わるでしょう。例えば怒っているときの言い回しなどは、万国共通だからです。
赤ん坊でも母国の言葉を話すのに、大人になってから外国語を習得するのは難しい。言葉はその国の文化の習慣であるからです。

言葉というのは、その人の生き方の流儀であり、マナーです。言葉を豊かにするというのは、自分の言葉を持つことができるようになることです。流行や借用の言葉を安易に使うことをせず、自分が信じる真に必要な言葉を使うように心がければ、言葉も心も豊かになっていくことでしょう。

「・・・のように美しい」と言うとき、あなたは何にたとえますか?
どんな言葉を使うかで、一人一人のキャラクターや経験が現れてきます。それが言葉です。
自分が選び取った言葉の中に、実は自分が選び取られているのです。

「器量」というのは、器とそれに容れる量のことです。
人間の器量とは外見だけでなく心の大きさを表しますが、器量を大きくしていけるような言葉を自分の中に蓄えていかないと、これからの言葉はどんどん乏しくなっていってしまうでしょう。
例えば同じマフラーを持っていても結び方で個性が出るように、一つの言葉を「自分の言葉」にするのは、その言葉をどのように使っていくかという、言葉に向き合う態度が重要なのです。

このコースの集大成という感じで、高科先生の熱弁が続きます。
最後は長田弘の『詩ふたつ』(クレヨンハウス)を読み聞かせてくださいました。
亡くなった奥さまを思って綴った2編の詩とクリムトの絵が、美しい本でした。




「死んだら、ここではないどこかへ行くのだと思っていたら
そこからはどこにも行かない、その人が行き着いた一番遠い場所だと気が付いた」
「言葉というのは、決して言葉に出来ない思いがここにあるよと指さすことができるもの」

などなど、印象的なフレーズが出てきました。

ずいぶん昔、先生が詩人の工藤直子さんに会ったときに、
「言葉では言い表せないことはあるというけれど、それはその人が未熟だから。
きちんと言葉で言い表すことが出来るのは、その人が成熟しているから」
と言われたことがあるそうです。

言葉は、誰かに自分の意志を伝えるために存在します。
今期のテキストにした、池上彰と中内政明の『書く力─ 私たちはこうして文章を磨いた』(朝日新書)では
「書く力は読む力でもある」とありました。
先生が紹介してくれた書物や、違うものでも、少しでも心にひっかかるものがあればどんどん読んで、自分の言葉を豊かにしていってください。

今期の授業はこれで終わりです。
次の第3期ではまた違うテキストを使ったり、いろんな本を取り上げることを、先生はもう考えておられるようです。
この先も文章たっぷりコースで、言葉や文章を書くことについて深く楽しく学んでいきましょう。

今期は緊急事態宣言などで通常とは違う状況下ではありましたが
高科先生、ありがとうございました。
受講生の皆さん、お疲れさまでした。

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