「ライオンのあとで」
作 ロナルド・ハーウッド
訳 出戸一幸
演出 高橋昌也 前川錬一
EXシアター六本木
黒柳徹子さんが主演する海外コメディーシリーズ。
30年続いたこのシリーズがついにファイナルとなるのでぜひ、と演出の故高橋昌也さんの奥様にお声をかけていただき、六本木まで出かけてゆく。
数年前、EXシアターの杮落しの公演がこの海外コメディシリーズだった。
元音楽家たちが余生を過ごす老人ホームを舞台にした「思い出のカルテット」
この公演の少し前の1月に演出の高橋氏がお亡くなりになった。
3月のこの公演への意欲満々のお葉書をいただいた数日後のこと。
テレビで訃報を知り、ホントに驚いた。
この時のチケットはすでに買っていたので、観に行ったけれど、その後はなんとなく高橋氏を思い出すので、足が遠のいていた。
しかし、これが最後なら観に行かねばならない
今回黒柳さんが演じるのは、実在したフランスの女優 サラ・ベルナールの晩年。
上演中の事故で片足を怪我してしまい、切断することになってしまう。
大女優と言われた彼女も、仕事もなく、財産も底をつき、借金が膨れる一方だが、何とか復活したいと思い、車椅子で戦地に慰問に赴く。
兵士たちの熱狂を伝えるマスコミの報道で世間は彼女の存在を思い出すけれど、新たな出演依頼はたった一つ。
内容を知らずに喜ぶ彼女に知らされたアメリカからの出演依頼とは・・・なんとサーカス。
順番は
ライオンのショーのあと、像の前・・・。
ここで、タイトルの「ライオンのあとで」の意味がわかる。
なんて切なくて秀逸なタイトルなんだろう。
秘書が手紙を読むのを無表情で聞いている黒柳さんのサラからは血の気の引いていく音が聞こえるようで、観ているこちらまで切なくなる。
ひとしきり泣いた後、毅然としてサーカスへの出演を決意したサラの自宅でのリハーサルで幕が下りる。
天に向かって高くこぶしを振り上げるサラの誇り高い姿が胸を打つ。
「聖女」と言われたサラの足を切断することに葛藤する若い医師 デセーネ少佐にジャニーズWESTの桐山照史さん。
仕事のできそうなバリバリの感じから、戦場で頭に怪我をして会話もままならない重い障害が残って帰還し、サラの家で暮らすことになる抜け殻のようなデセーネを好演。
今回は早々にチケットが完売し、追加補助席でやっともぐりこんだ。
なぜこんなにチケットが取れないんだろう、さすがにファイナルだから?と思っていたが、彼が出演していたからだった。
ジャニーズのタレントさんが一人でも出演するとこういうことになってしまう。
サラを慕う秘書のピトーは大森博史さん。
辛辣な物言いをしつつ、実はサラを心から慕って、いつもひそかにフォローしている。
サラとのやり取りや、ぼそっとつぶやく一言が笑いを誘う。
黒柳さんとの掛け合いの間が絶妙だ。
家事を取り仕切るグルネー婦人を演じるのは「思い出のカルテット」にも出演していた阿知波悟美さん。
わがままなサラの振る舞いにぶつぶつ文句を言いながらも徐々にに魅了されていき、最後には傷ついたサラを深く慈しむ様子がなんとも優しい。
黒柳さんはずっと車椅子の上でサラを熱演。
滑舌もあんまりよくないし、時々噛んじゃったりもするけど、それが余計に忘れられた大女優の物悲しさを醸し出す。
カーテンコールは10回くらいだったんじゃないだろうか。
大森さんと桐山さんに支えられ、車椅子から立ち上がり投げキッスをする姿がとってもキュート。
スタンディングオベーションの中、天井から紙飛行機のようなものがひらひらと降ってくる。
私の足元に落ちたものをみると、ハート型の紙に黒柳さんからのメッセージが書いてある。
拾おうかなと思ったけれど、前の席の女性が身を乗り出して一生懸命拾おうとしているので、拾うのをやめた。
終演後、高橋氏の奥様とちょっと立ち話。
「完全に舞台をやめてしまうのですか?」と聞いたところ、海外コメディーシリーズは上演時間も長いし、内容的にも体力的にもハードなので終わりにするけれど、もう少し負担のかからないものはこれからも続けていくらしいとのこと。
プロ意識が高いし、サービス精神も旺盛な方なので、無理をしがちで見ているスタッフの方たちがとても心配になるらしい。
つい最近の樹木希林さんの訃報といい、次々と著名な方たちが亡くなっていく昨今、黒柳さんにはまだまだご活躍いただきたいものだ。
劇中、足の切断を前に葛藤するデセーネ少佐に言い放つサラのセリフ「お芝居で大事なのは目に映った姿ではなく、お客様の想像力に火をつけること」
その通りでした、黒柳さん
どうかこれからもお元気で。