穏やかな春の日、夫の親戚から訃報が届く
近くに住む92歳のおばあさんが亡くなった、と
夫の父の従弟の奥さん、と血縁はわりと遠いが、家が近いのでちょこちょこ交流はあった
ただ、もっぱらお会いするのは94歳のおじいさんのほう
このおじいさんは お話がそれはそれは面白くて、集まるときがあればいつもみんなを笑わせてくれる
早速夫とともにお宅に伺うと、ちょっと憔悴したおじいさんが出迎えてくれた
眠っている間に亡くなっていて、ご家族はそのことに気が付かなかった
おばあさんが先に就寝し、亡くなったとされる午後10時過ぎごろおじいさんはテレビを見ていたのだとか・・・
そのあとすぐにおじいさんも就寝し、その時もまだ ただ眠っていると思っていて、深夜にトイレに起きたときに異変に気が付いた
病院ではなく自宅で亡くなったので、警察が5~6人やってきて、明け方まで写真を撮ったりいろいろ調べられたりしたらしい
高齢のおじいさんにはかなりこたえた事だろう
その時のことを、いつもの調子で面白おかしく話そうとするのだけれど、とても痛々しくて辛くなる
お通夜の時も告別式の時も、次々と訪れる参列者に喪主として気丈にご挨拶をされていた
出棺の準備を待つ間、斎場のホールで待っていると、
ホールの入り口わきに、ご家族のスナップ写真が飾られていた
結婚した時のモノクロの写真、お子さんたちとの旅行の写真、お孫さんたちと並んだ写真・・・
92年の長い長い人生はどれほどもののだったのだろうか
葬儀のために作ったであろうアルバムが置かれていたので開いてみる
写真のあるページには写真の説明が、
写真のない白いページにはお二人のエピソードが、短い分で添えられている
「おじいちゃんはおばあちゃんのことが大好きなので、なんでもおばあちゃんに聞く」
「おじいちゃんはいたずら好きなので、坂の途中でおばあちゃんの車椅子を押す手を離したりする」
「おじいちゃんとおばあちゃんは雨の日以外は手をつないでおつかいに行く」
穏やかな笑顔のお二人の姿が目に浮かんで、思わず胸が熱くなる
出棺の準備が整い、斎場に飾られていたお花を参列者が棺の中に飾る
きれいにお化粧をして、たくさんのお花に囲まれて静かに眠るおばあさんの耳元でおじいさんが小さな声でつぶやいた
「きれいだよ」
思わず涙があふれそうになる
棺の蓋が静かに閉じられ、おばあさんを乗せた霊柩車が長く大きくクラクションをならして、お寺の門をでてゆく
とてもあたたかな、うららかな春の日の午後の静かな旅立ち
心よりご冥福をお祈りいたします
合掌