ゆるゆるらいふ

とりあえず、今日も一日機嫌よく・・・

【観劇メモ】散歩する侵略者

2017年11月17日 | 演劇
「散歩する侵略者」
作・演出 前川知大 シアタートラム

前川知大さんが主宰する劇団「イキウメ」の舞台が好きだ。

この「散歩する侵略者」は夏に映画化されていて、
観に行きたいと思っていたけれど、何となく見逃してしまった。

でも

観なくてよかった。

結末が分かっていたら、今日の感動は半減したことだろう。

一言でいえば

「愛は地球を救う」かもしれない話だ。

3日間の行方不明の後、記憶を無くし、
別人格になって発見された夫。

離婚まで秒読みだった夫の突然の変化に戸惑う妻。

夫は毎日散歩に出かけては少しずつ人間らしくなっていくのだけれど、
なんだか変。

同じころ、老婆が家族を惨殺し自殺する、という事件が起き、
ただ一人生き残った孫娘は記憶が神経衰弱状態で入院中。

彼女を探して病院に入り込もうとする少年も何だか変。

この話の舞台となるのは日本海に面した小さな町。

ここには同盟国の大規模な基地があり、隣国との軍事的な緊張が高まる中、
何やら不穏な空気が漂う・・・
って言うどこかで聞いたことのあるような設定がリアル。

この町を取材している元警察官のジャーナリストが想像もつかない事実に近づいていく。

夫、孫娘、少年の体はすでに侵略者によって侵略され、
彼らは出会う人から「概念」みたいなものを吸収して、
地球の様子を知ろうとしている。
そして、彼らに吸収されてしまった概念は、その人の中から消えてしまう。
例えば、「家族愛」を抜き取られた人は、家族に対する愛情が持てなくなり、
わずらわしいだけになってしまう、と言った感じ。

これは相当恐ろしい。

やがて町には何か一つのことに関する概念がすっぽり抜け落ちた人が増えてゆく。
そのかわりに侵略者たちは人間らしくなってゆくのだ。

冷たく自分勝手だった夫は、侵略されたことによって、
優しく、妻を尊重するようになり、
妻は夫に再び愛情を抱き始めるのが何とも皮肉だ。

侵略者たちがいずれ身体だけを残し、自分たちの場所へ帰ってしまうとき、
その体はどうなってしまうのか。

夫は発見された時に、金魚すくいの金魚の入った袋をぶら下げていたが、
金魚は死んでいた。

侵略者の3人が最初に間違って入ってしまったのは金魚だった、ってことは・・・。

あちこちにはりめぐらされていた伏線がじわじわと一つにまとまってゆく。

そしてじわじわと怖い。

孫娘が入院している病院のドクターとジャーナリストは少年と話しているうちに
とうとう恐ろしい侵略者の計画に気づく。

色々な概念を集めた夫が最後までわからないのが「愛」

なぜなら、散歩で出会った人たちは彼を愛していないから。

夫の真実を知ってもなお、夫への愛が深まる妻が
やがていなくなってしまう夫のために「愛」を差し出す。
だって「愛」が無くなれば、夫がいなくなっても悲しくないから。

その深い「愛」を受け取った夫の中の侵略者は、
はたしてこの地球を侵略できるのだろうか。

言葉と概念が結びつかない侵略者たちと、
周りの人たちの噛み合わない会話のもどかしさ。
感情もモラルもない、ぞっとするような侵略者たちの冷たい言葉。

それを覆い尽くすほどの深い愛。

最初は背中がうすら寒くなるような気味悪さと恐ろしさ、それに少しの滑稽さ。
やがてラストにむかってじわじわと感動がこみ上げてくる。

まさに「愛は地球を救う」かもしれないのだ。

毎回言っているけれど、前川氏の脚本には矛盾がない。
ありえない設定の中でも、矛盾がないので、とってもリアルに感じられる。
個人的に、この「隙がない」感じが病み付きになっている。

この日お付き合いくださったのは、戯曲セミナーのお仲間の同年代の女性。
前川氏の講義も一緒に受けたけれど、彼の作品を観たのは、
前回もご一緒していただいた「関数ドミノ」が初めてとのこと。

開演時間より早く待ち合わせたので、
三軒茶屋駅直結のキャロットタワーに上り、
暮れはじめた東京の景色を眺める。



幻想的だなあ~と思わずシャッターを押したけれど、
舞台を観終わって家に帰ってから改めてみると、なんだか不穏な景色にも見える。

「愛」は地球を救えるのだろうか・・・。










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