いささか旧聞に属するが、今年の5月15日、二期会創設メンバーの
一人である佐々木成子(さだこ)さんが97歳で亡くなられた。
二期会創設メンバーでご存命なのは栗本尊子さんだけになったので
はないかしらん。
佐々木成子さんは、桑原先生の先生として存じ上げていた(--東
京のご出身で、母の女学校の先輩でもあったのかしらん)。
今年の5月、小田原少年少女合唱隊の定期演奏会(21日)の折、桑
原先生に「佐々木先生は残念でしたね~」とお話したら、「佐々木先
生がライナー・ホフマンの伴奏で歌っておられるCDがあるから、お送
りしますわ」とすぐに送ってくださった。
このたび、つたないながら、ここにやっと感想をまとめることができた。
<収録曲>
F.シューベルト
1.緑の中の歌
2.夜の歌
3.最初の喪失
4.星
5.夜咲きすみれ
R.シューマン
6.松雪草
7.新緑
8.私のばら
9.私の花園
10.秘密の失踪
11.ただあこがれを知るもののみが
12.ズライカの歌
13.中国地方の子守歌
14.子守唄
15.ねむの木の子もり歌
中田喜直
16.鳩笛の歌
17.母私抄
18.公園へいこう
19.ちょうちょ
20.霧と話した
21.たんぽぽ
22.タマゴ
23.ひぐらし
24.さくら横ちょう
25.十二月三十日
26.よかった
ピアノ;ライナー・ホフマン
録音;平成4(1992)年10月
佐々木さんが70歳過ぎの「スタジオ録音」だ。
26曲を順番に聴いても無論いいのだが、任意の一曲を選んでじっく
り聴いてみよう。メゾ・ソプラノということも多少あるかもしれないが、
どの歌唱も「どう?わたし上手いでしょう」というところがなく、上品に
地味に、じわじわと心に沁み込んでくる(--地味であることは何と
すばらしいことでしょう)。日本歌曲も、シューベルト、シューマンのド
イツリートの延長線のようだ。
「地味」な歌唱とは、表面的なことではなく、畢竟、人柄とか人間性
の問題なのかもしれない。
ドイツ語はウィーン風というのかしらん(?)、柔らかい子音で歌って
いる。
日本歌曲では、「中国地方の子守歌」は佐々木さんの十八番だった
ようだ。中田喜直「鳩笛の歌」、「霧と話した」、「よかった」などが聴け
るのも嬉しい。
一体、「音楽」は(--さらに具体的に表現すれば、「音楽のイメージ」
は)その人の内(心の中)にあるものだ。
--声楽で言えば、音程が合ってるとか声がいいとかいうことよりも
(音程が合っていて、声がいいのは前提条件?として)。
ヴォリュームもできる限り大きくして聴いた方がいいかもしれない。大
きくしても、けっしてうるさくないし、その方が佐々木さんの心を含めた
息遣いが聴き取れる。
ライナー・ホフマンのピアノ伴奏も、佐々木さんの「芸風」(--「芸風」
とは上手い下手以上の問題だ。)にぴったりですばらしい。
シューベルトは伴奏者に恵まれなければ、難しい。
佐々木さんがウィーンに留学したのは昭和30(1955)年である。そ
れは、日本より遅く、オーストリアがやっと独立を回復した年だった。
佐々木さんは、私は知らなかったのだが、日本人として初めて「芸術・
科学名誉十字勲章」を受賞した女性である。
kenkoさんも佐々木さん(LP or CD?)をお聴きになったことがあ
るかしらん。
「LIEDERABENT SCHUBERT SCHUMANN Y.NAKADA」
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佐々木さんは、F.シューベルトの(?)「野ばら」の前奏4小節に現れる4つの八分音符の意味を30分かけて解説されたという話を読んだことがあります。
「音符」ではなく、「音が見えていますか?」とは深い言葉ですね~。
残暑の折り、くれぐれもご自愛のほどお祈り申し上げます。
私が初めて佐々木先生の演奏を拝聴したのは
戦後、初めての留学生としてウイーンで研鑽を
積み、帰国演奏会をなさった時でした。
(母の恩師が佐々木先生の母上だったので。)
今回のCDの14の中田喜直先生の「子守歌」は、
佐々木先生のために作曲され、帰国演奏会の
アンコールで初演されました。
先生のご自宅にはホフマン先生のお部屋も
用意され、頻繁に来日なさっていました。
生徒に対するレッスンは、お人柄を表した
細やかな、音楽的な内容で、
「音が見えていますか?」という教えを今も
大切にしています。