信州から爽やかな風が吹いてきました。篠ノ井の長谷寺の住職さんが中心になって編集発行した冊子の紹介文が飛び込んできたのです。ぼくはさっそく電話をかけて5冊注文しました。
住職の岡沢さんが書かれた文章があります。詩というより他はない心にしみる文です。どうぞ、ゆっくり読んでみてください。
僕が呼びかけ人の1人である「チベット《問題》を考える真言宗智山派有志の会」では、チベットの歴史や仏教の概略、チベット問題の経緯やその現状と今後について、「まず知る」を目的とした小冊子『コンパッション-悲-』を企画発行いたしました。
問題の本質は何なのか、私たち僧侶はこれをどう考え、どう対応していけばいいのか。「悲(コンパッション)」をキーワードとして、チベット問題から見えてくる諸問題に対する私たち僧侶のアプローチのあり方を提案します。
本宗のお坊様には、各地区青年会の勉強会などにぜひご活用ください。
宗派外の方でも、もちろんお坊さんでなくても、OKです。
● 頒布価格 1部500円(送料別)
● 申し込み方法 下記までお申し込みください。
● 申し込み先 〒388-8014長野市篠ノ井塩崎878 長谷寺内
チベット《問題》を考える真言宗智山派青年僧侶有志の会 呼びかけ人 岡澤慶澄
電話026-292-2102
◇
Compassion‐悲‐
今、チベットから風が吹いている。
強い風だ。
チョモランマから吹く風だろうか。
チョモランマというチベット語は《大地の母》という意であるから、
母なる風であろうか。
しかしこの風が母なる風であるなら、
まるで行方知らずになった愛しい我が子を探し求める母の声のようである。
それは、あまりに悲痛な呼び声である。
この風が吹く時、チベットでは人々が泣いている。
この風が強く吹けば人々が傷つけられている。
もっと強く吹く時には、人々が殺されている。
しかし、この風には嘆きや悲しみの声だけではなく、
よく耳を澄ませば祈りの声、自由への歌、マントラ、
そして命をかけた叫びが微かに鳴っているのが聞こえるだろう。
コンパッション。
サンスクリット語でカルナー。
我々はこれを悲と呼ぶ。
その意味は、
同悲同苦、
憐れみ、
愛、
近頃では共感共苦、
種字では「キャ」、
すなわち観世音菩薩の本性に他ならない。
世の苦しみ(煩悩)の音を観るのが、
共感共苦、
悲であり、
コンパッションである。
あなたにチベットから吹く微かな風の歌が聞こえるなら、
あなたのうちなる観音性、コンパッション-悲-は生きている。
あなたに、
あの風の歌が聞こえないなら、
あなたの観音性は何処かへ亡命しているであろう。
しかし、死んではいない。
ずっとあなたに呼びかけている。
あなたの観音性を念じている。
その呼び声に応えるなら、
亡命していた悲は帰り来たり、
観世音菩薩は現れるであろう。
我々はチベットに吹く風に
再び子供らの笑い声と
僧侶たちの祈りの声が響き渡る日が来ることを信じている。
大地の母なるチョモランマから吹く風が、
我が子を深く抱きとめる子守唄のような風の歌を歌う日が来ることを信じている。
そのために、
今チベットから吹いている悲しみの風を大悲の帆に受けとめて、
日本仏教という船は苦海に漕ぎ出さなくてはならない。
目の前に広がるのはまるで暴流のごとき大海であろうが、
コンパッションを海図に進むなら、
荒れ狂う海に沈みそうなチベットの友を引き乗せることもできるし、
海図を失っている中国の友と船底を分かち合うことも出来るし、
いつの日にか
曼荼羅世界という彼岸へと渡っていくことさえ可能であると信じている。
この荒海を漕ぎ渡る筏こそ、
観世音菩薩の船、
コンパッション-悲-である。
◇
上の文は、この小冊子『コンパッション-悲-』の巻頭言として書かせていただいたものです。
僕なりに、チベットから今世界に吹いている風を感じてのものでした。
皆さんも、それぞれの肌で感じているチベットの風があると思います。
いま、僕ら僧侶は、仏教という凄い船を持っているのに、帆が風を受けとめられず前に進まずに時代の大海にただ浮かんでいるような気がします。
でも、今チベットから吹いている風を帆に受ければ、僕らの船は再び大航海に船出できるのではないかと思うのです。
帆を揚げよ、そして風を受けて進め、ですね。
◇
この小冊子は、チベット問題への関心の裾野を広げることを第一の目的としています。
ですから、決して難しい内容ではありません。
でも、だからといって、レベルが低いわけでは決してないと思います。
タイトルが共感共苦を示すコンパッション(悲=慈悲)ですから、今チベット人が感じている悲しみや苦しみを分かち合いたい、そこから始まるものがあるのではないか。
あるいは、仏教徒としてのアプローチとはどんなものであろうか、というものです。
その意味では、今の今までチベットについて無関心だったけど、どんなものなのか概略を知りたいと思う方には、おすすめです。
それに、入門編から専門編まで、幅広い著作や映画、ウェブサイトなどの紹介コーナーもあります。
もちろん、専門家によってまとめられたものなんですよ!
◇
この企画から発行までに要した時間はなんと10日間でした。
僕らの宗派の青年会長様との対話からアイディアが生まれ、それに仏画師の牧宥恵先生の進言が加わって「形あるものにまとめよう」と企画の原型が生まれたのが5月2日。
聖火リレーからわずか1週間のことでした。
その間に、原稿依頼(2日、または3日)、原稿最終締め切り(8日)、構成編集(9日)、校正(9、10日)、出力製版・印刷・製本(12日)、そして納入が5月13日でありました。
ということは、執筆協力いただいた皆様は依頼当日から締め切りまでほぼ1週間で書き上げてくださったことになります。
これは大変なことであります。皆さん、本当に本当に有り難うございました。
しかもしかも、原稿が届き始めたのは、4日からでしたが、6日頃から本格的に編集をしてくださったデザイナーさんは他の仕事の合間に進めてくださり、最後は徹夜続きで仕上げてくださいました。感激しました。長野を代表する女性天才デザイナーのAさん、そして編集者のMさん、有り難うございました。
◇
というわけで、ぜひ皆さんお読みください。
よろしくお願いします。
出典 長谷寺 http://www.hasedera.net/blog/2008/05/post_60.html
住職の岡沢さんが書かれた文章があります。詩というより他はない心にしみる文です。どうぞ、ゆっくり読んでみてください。
僕が呼びかけ人の1人である「チベット《問題》を考える真言宗智山派有志の会」では、チベットの歴史や仏教の概略、チベット問題の経緯やその現状と今後について、「まず知る」を目的とした小冊子『コンパッション-悲-』を企画発行いたしました。
問題の本質は何なのか、私たち僧侶はこれをどう考え、どう対応していけばいいのか。「悲(コンパッション)」をキーワードとして、チベット問題から見えてくる諸問題に対する私たち僧侶のアプローチのあり方を提案します。
本宗のお坊様には、各地区青年会の勉強会などにぜひご活用ください。
宗派外の方でも、もちろんお坊さんでなくても、OKです。
● 頒布価格 1部500円(送料別)
● 申し込み方法 下記までお申し込みください。
● 申し込み先 〒388-8014長野市篠ノ井塩崎878 長谷寺内
チベット《問題》を考える真言宗智山派青年僧侶有志の会 呼びかけ人 岡澤慶澄
電話026-292-2102
◇
Compassion‐悲‐
今、チベットから風が吹いている。
強い風だ。
チョモランマから吹く風だろうか。
チョモランマというチベット語は《大地の母》という意であるから、
母なる風であろうか。
しかしこの風が母なる風であるなら、
まるで行方知らずになった愛しい我が子を探し求める母の声のようである。
それは、あまりに悲痛な呼び声である。
この風が吹く時、チベットでは人々が泣いている。
この風が強く吹けば人々が傷つけられている。
もっと強く吹く時には、人々が殺されている。
しかし、この風には嘆きや悲しみの声だけではなく、
よく耳を澄ませば祈りの声、自由への歌、マントラ、
そして命をかけた叫びが微かに鳴っているのが聞こえるだろう。
コンパッション。
サンスクリット語でカルナー。
我々はこれを悲と呼ぶ。
その意味は、
同悲同苦、
憐れみ、
愛、
近頃では共感共苦、
種字では「キャ」、
すなわち観世音菩薩の本性に他ならない。
世の苦しみ(煩悩)の音を観るのが、
共感共苦、
悲であり、
コンパッションである。
あなたにチベットから吹く微かな風の歌が聞こえるなら、
あなたのうちなる観音性、コンパッション-悲-は生きている。
あなたに、
あの風の歌が聞こえないなら、
あなたの観音性は何処かへ亡命しているであろう。
しかし、死んではいない。
ずっとあなたに呼びかけている。
あなたの観音性を念じている。
その呼び声に応えるなら、
亡命していた悲は帰り来たり、
観世音菩薩は現れるであろう。
我々はチベットに吹く風に
再び子供らの笑い声と
僧侶たちの祈りの声が響き渡る日が来ることを信じている。
大地の母なるチョモランマから吹く風が、
我が子を深く抱きとめる子守唄のような風の歌を歌う日が来ることを信じている。
そのために、
今チベットから吹いている悲しみの風を大悲の帆に受けとめて、
日本仏教という船は苦海に漕ぎ出さなくてはならない。
目の前に広がるのはまるで暴流のごとき大海であろうが、
コンパッションを海図に進むなら、
荒れ狂う海に沈みそうなチベットの友を引き乗せることもできるし、
海図を失っている中国の友と船底を分かち合うことも出来るし、
いつの日にか
曼荼羅世界という彼岸へと渡っていくことさえ可能であると信じている。
この荒海を漕ぎ渡る筏こそ、
観世音菩薩の船、
コンパッション-悲-である。
◇
上の文は、この小冊子『コンパッション-悲-』の巻頭言として書かせていただいたものです。
僕なりに、チベットから今世界に吹いている風を感じてのものでした。
皆さんも、それぞれの肌で感じているチベットの風があると思います。
いま、僕ら僧侶は、仏教という凄い船を持っているのに、帆が風を受けとめられず前に進まずに時代の大海にただ浮かんでいるような気がします。
でも、今チベットから吹いている風を帆に受ければ、僕らの船は再び大航海に船出できるのではないかと思うのです。
帆を揚げよ、そして風を受けて進め、ですね。
◇
この小冊子は、チベット問題への関心の裾野を広げることを第一の目的としています。
ですから、決して難しい内容ではありません。
でも、だからといって、レベルが低いわけでは決してないと思います。
タイトルが共感共苦を示すコンパッション(悲=慈悲)ですから、今チベット人が感じている悲しみや苦しみを分かち合いたい、そこから始まるものがあるのではないか。
あるいは、仏教徒としてのアプローチとはどんなものであろうか、というものです。
その意味では、今の今までチベットについて無関心だったけど、どんなものなのか概略を知りたいと思う方には、おすすめです。
それに、入門編から専門編まで、幅広い著作や映画、ウェブサイトなどの紹介コーナーもあります。
もちろん、専門家によってまとめられたものなんですよ!
◇
この企画から発行までに要した時間はなんと10日間でした。
僕らの宗派の青年会長様との対話からアイディアが生まれ、それに仏画師の牧宥恵先生の進言が加わって「形あるものにまとめよう」と企画の原型が生まれたのが5月2日。
聖火リレーからわずか1週間のことでした。
その間に、原稿依頼(2日、または3日)、原稿最終締め切り(8日)、構成編集(9日)、校正(9、10日)、出力製版・印刷・製本(12日)、そして納入が5月13日でありました。
ということは、執筆協力いただいた皆様は依頼当日から締め切りまでほぼ1週間で書き上げてくださったことになります。
これは大変なことであります。皆さん、本当に本当に有り難うございました。
しかもしかも、原稿が届き始めたのは、4日からでしたが、6日頃から本格的に編集をしてくださったデザイナーさんは他の仕事の合間に進めてくださり、最後は徹夜続きで仕上げてくださいました。感激しました。長野を代表する女性天才デザイナーのAさん、そして編集者のMさん、有り難うございました。
◇
というわけで、ぜひ皆さんお読みください。
よろしくお願いします。
出典 長谷寺 http://www.hasedera.net/blog/2008/05/post_60.html