昨日の日曜日は、がっこーの体験入学がありました。
高校生の方達に、体験的にレッスンを受けて頂いて、進路選びの参考にして頂く日なわけですね。
僕たち、講師も、それから補助員(卒業生が学校に残って、数年間職員として僕たちのお手伝いをしてくれるんです)や、アルバイト的にお手伝いに来てくれる学生さんたちも、皆さん、なんだかいつもの日とは違って、少しウキウキというか、楽しい日なのです。
なんといっても、高校生の皆さんにとって、音楽だけの専門の学校~ずらっと並んだスタジオとか、沢山の楽器とか、豊富なアンプなどの機材とか、それから、僕たちのようなミュージシャンが「こんにちはー」とかいいながらウロウロしてたりとか(笑)、普段の学校生活ではあまり馴染みがないであろうことが、ある空間なわけです。
小声で「すげー……」とか言って、スタジオに入ってくる学生さんたちの、なんとも、初々しくて、かわいい事(笑)。
だから、僕たちもみんな、どうしても頬が緩むのです。
そして、みんなのうきうきが、伝染するのです(笑)。
嬉しいことがありました。
この夏に、一人の高校三年生の女の子が、体験入学に来てくれました。
その日、僕が担当していたのは、作曲やアレンジを学ぶ専門コースの体験入学でした(僕は、キーボードのコースと、状況により、両方とも担当するのです)。
彼女は、5名ほどの知らない学生さんの中に入って、パソコンとキーボードを前に、最初は少し固い表情だったのですが(そりゃあ誰だって緊張するでしょうね)、
レッスンが始まり、パソコンに不慣れな彼女は、どうしていいものか、と少し困った様子に見えましたので、
僕が、「ねえ、今から、一緒に曲を作ってみない?」と持ちかけますと、
「えー、今ですか?そんなことできるんですか?」と半信半疑。
きけば、ピアノはもう14年もやっているのだとか。
でも、コードとかパソコンとかは全然わからなくて、バンドもやったことがないとのこと。
でも、音楽が大好きで、できれば音楽の学校に入って勉強したいと思ってる、と言いました。
一緒にドラムを打ち込み、目の前でピアノを弾き、ベースを打ち込みました。
時折触ってもらいながらも、「こんな風にできていくんだよ」と、僕がちょっと説明しながら、さっと、その場で出来る程度の簡単な曲にしていったんです(時間は、1時間ほどしかなかったので)。
そして、仕上げに、と思って、ストリングスを入れたんですね。オーケストラっぽいイメージで、音色は少し豪華な感じで、アドリブではありましたが、
でもメロディーは、そうですねえ、「宮崎アニメの久石さんなんちゃって」みたいな、少し切ないような感じになってたのかな。
そしたら彼女、それを聞いて、声を上げて「すごい!すごい!」と言ったんです。
横にいる彼女の顔を見ますと、目がキラキラ輝いていて、なんだか、少しウルウルしていたようでもあり……。
そして、せきを切ったように、「私、こういう風な音楽が作れるようになりたいんです!」
そして、ニコニコして、色々と自分の好きな音楽の話や、将来の夢を話してくれ始めたんです。
嬉しいですねえ・・・僕も、ちょっと泣きそうでした。
コンピュータールームでの授業が終わって、待合になっていたスタジオに戻りますと、
付き添いでいらしていた保護者のお母さんと、学校の職員氏が話をしておりました。
職員氏が僕を見つけると、「あ、川村せんせー。こちら、〇〇さんのお母さんなのですが……授業中の娘さんの様子、どうだったでしょうかと」
お母さん、気になるんですねえ。
僕は正直に「ピアノのスキルがあるのは勿論アドバンテージですが、それよりも何よりも、……彼女は音楽が大好きなんですねえ。沢山、お話ししてくれましたよ」
と言いますと、
「そうなんですよね。家でも、音楽の話だけは、楽しそうにするんです。でも、他は全然で(笑)」
そうなんだ(笑)。でも、思春期の女の子ですからね。そんなものなのかもしれませんよね。でも、理解があるのかな、と思ったら。
「実は、音楽の学校に来させることには、父親が猛烈に反対してまして。」
「(あらら)そうでしたか」
「そんな、不安定なこと、仕事になんかならないだろう、と」
「(ごもっと)……いや、まあ、そうですよねえ。お気持ちはわかります。」
「そして、いえね、私は、まだ理解があるんですけれども」
とおっしゃる。
「なら、お母さんは味方になってあげてくださいね。あんなに音楽が好きなのですから、その気持ちだけは、どうか、理解してあげて下さい。」
「そうですね」
と、その日は、別れました。
その一か月ほど後の、また別な体験入学の日。
もう、体験授業も終わりまで、あと10分という時間に、……その彼女が、来たんです。
「あれ?どうしたの?」と聞くと、
「もう一度、授業を受けてみたかったんです。」
と。他の用事があったのか、もう、授業自体はほとんどできなかったんですが、せっかく来てくれたのですし、とお話しをしました。
すると。
「母にも反対されてるんです」
「え?」
ということで、彼女は、非常に困っておりました。
僕も、家庭のことまでは立ち入れません。
ただ、お話しを聞いてあげることと、「わかるよ。好きなこと、やりたいよねえ」と、理解をしてあげることしかできませんでした。
確か、その日は、最後に、ちょっとした講師のライブがあったのかな(ライブは、ある日と、ない日があるんです)。
僕も、他の先生たちと一緒に、ピアノを弾きました。
彼女も、その日は一人で来ていたようで、最後までライブを見てくれて、帰ってゆきました。
他の先生とも、「来てくれるといいですけどね」とお話ししておりましたが、
職員先生などのお話しを伺いますと、
「特に昨年の3・11以降、こういう芸術系の学校は、親御さんが敬遠するというか、そういうケースが増えているんですよ。もっと、医療系とか、技術系とか、分かりやすくいえば、ああいった震災の時でも役に立つことを教える学科に、行かせたがる傾向があるようなんですよ」
とのこと。なるほどなあ…。親の気持ち、なのかなあ。
そして昨日。
やはり、もうあと15分ほどで終わり、という時間に、
「川村せんせー、もう一名様、お願いします」と補助員くんに付き添われてきたのは、……彼女でした。
「あっ、こんにちはー!」
もうね、彼女、ニコニコしてるんですよ。嬉しそうなんですよ(笑)。
僕は「どうなったの?」と聞きますと、
「はい、私、来年から来ます!よろしくお願い致します!」
「おおお!!じゃあ、親御さん、理解してくれたの?」
「はい!」
「良かったねー!」
……これも、親心なのかな(笑)。
「コースはどこ?」
「ミュージックアーティストコースです」(←主に作曲とアレンジを勉強するコースです)
「そっかー!今年は、僕が受け持ってるコースだよ。とか言って、来年、また僕が受け持つかはわからないんだけどね。毎年変わるから。……って、別に僕じゃなくてもいいか(笑)」
と冗談っぽく言いましたら、
「いえ、川村先生に習いたいんです。」
と、真顔に。
……
トロトロトロ(←僕が溶ける音)。
嬉しい話ですよ。
あっ、別に、高校生の女の子にこんなこと言ってもらったのが嬉しい、って話のじゃないんですよ(いや、勿論嬉しくないはずはないですが(笑)、それより)。
「あと、コースは違うけど、キーボードの授業も、是非取ってね。」
というと、「はい、是非!キーボードもやりたいんです。私、両方、やりたいんです。」と。
こういう、夢に満ちあふれた気持ちに触れられるってことが、嬉しいんですよ。
とろけちゃうんですよ。
まあ、融けてたら、先生、務まらないので、再合成しましょう。
えいっ。
早く人間になりたーい(←わかる人は同世代(笑))。
来年の楽しみが、一つ増えました。
ではー。