僕が、S足学園音大に、お世話になりだしたのが2012年の9月からでした。
学校の区切りでいいますと、「2012年の後期」から、ということになります。
さて、こちらの大学では、先生とのマンツーマンで行われる、いわるゆ「レッスン」は、
自分の本来の専攻である「主科」のほかに、もう一つの「副科」のレッスンというものを、必修で受けることになっています。
これは専攻以外のレッスンなどを通して、色々と勉強の幅を広げて、実力をつけていってもらう狙いもありますし、
他の楽器を知ることは、音楽的総合力の上でも大変にプラスになるからです。
例えば、ドラム専攻の学生が作曲もできるようになるため、副科では「ギター」のレッスンをとったり、
ギター専攻の学生が、歌も歌えるようになっておこう、と副科で「ボーカル」のレッスンをとったりします。
そして、このレッスンは、5週間(1ターム、と呼びます)ずつで切り替えることができ、トータルで、年に6タームございますので、6種類のレッスンを受けられる、というシステムになっています。
なので、色々やってみたい学生は、例えば、主科としての専攻がキーボードであっても、副科として一年間で、「ドラム」「ベース」「ボーカル」「ギター」「パーカッション」「作曲」「理論」などと、色々なジャンルの勉強をすることができるのです。
しかしこの副科のレッスンは入学して半年の間は取ることができません。
学校生活に慣れてきた「後期」になって初めて、副科のレッスンを取ることができるのです。
僕が2012年の9月に初めて学校に行った時、まだ、僕は一人の学生とも面識がありませんでした。
なので、僕のレッスンを希望する、ということは、よほどの理由が無い限り、無いわけなのです。
3年半が経った今では、僕のことも多くの学生さんも見知ってくれており、嬉しいことに、どこであっても声もかけてもらえます。
レッスンにも多くの学生さんが来てくれていますが、
三年半前、最初は、わずか2人の学生さんだけだったのです。
そのうちの一人が、彼女でした。
ピアノの弾き語りのできるシンガーソングライターを目指していた彼女は、
専攻のボーカル以外に、副科で、ピアノのレッスンを取ろうと思っていたそうです。
そこで、僕が学校に行くことになって、いってみれば、試しに、僕のレッスンをとってみてくれたのだと思います。
そして、僕にとっては、そんな彼女が、こちらの大学で会う、初めての学生さんの一人だったのです。
そして、その後、あっという間に大勢の学生さんが、僕のレッスンを取ってくれるようになりました。
「はじめまして」という学生さんに
「どうして、僕のレッスンに?」と訊きますと、
大勢の学生さんが、
「アイリから、『ケンさんのレッスン、めちゃくちゃいいよ』、と薦めてくれたので」
というのです。
そこからまた、どんどん新しい学生さんに知り合うこともできるようになりました。
こうして、僕のS足学園音大での生活が、スタートしたのでした。
今では、とても多くの学生さんがレッスンに来てくれていることは、先ほども書きました。
次の4月からは、受け持ちの授業も増えますし、レッスン枠もまた増やすことになりそうです。
「でも、これも、アイリちゃんのおかげでなんだよ。」
今日、彼女の最後のレッスンで、伝えました。
彼女は、5週間ごとに自由に先生を変えても良いシステムの中で、
主科であるボーカルの先生は幾人かの先生に教わっていたようですが、
副科に関しては、レッスンを取れるようになった1年生の後期からずっと、僕のピアノのレッスンを取り続けてくれたのです。
そして、どうしてもやむを得なかった例外を除けば、レッスンを休むこともなく、毎週、元気な顔をみせてくれて、
毎回のように「そっかー!なるほどー!こう弾けばいいんですね!」「すごーい!ほんとだ!全然、良くなりますね!」と、いつも元気にレッスンを受けてくれました。
ずっと続けているライブや、仲良しの仲間の皆との日々の中で、
彼女のピアノも、曲も、どんどん成長して、
いよいよ、この春、大学からは、卒業です。
まだ最後の試験ライブや、卒業パーティなどもありますから、
顔を合わせることもあるとはおもいますが、
ともあれ、長く続けてくれたレッスンは、今日が最後、でした。
まったく普段通りに、本当にいつものようにレッスンをして、
「ありがとうございました」と、コートを着て、荷物を持って、
「じゃあ」
といってから、彼女は、目を真っ赤にして、泣いてしまいました。
ありがとうね、
でも、ここからが、スタートだからね。
頑張ってね。
廊下で待っていた次のレッスンの学生が、ちょっとびっくりした様子で、彼女を振り返りながら部屋に入ってきたので、
「・・・あ、別に僕がいじめたりして、泣かせたわけじゃないからね」
と、妙な言いわけをしてしまいました。
記念すべきCDたち。
このピアノで、ずっと練習してきました。
彼女の未来に、幸多かれ、です。
ではー。