浅田次郎は、ありそうもないことを如何にもありそうにして小説に仕立てる。
みんなは知らないけど知る人は知るで、ひょっとしたらこう言うこともあるかもしれないと思わせる天才的な嘘つきです。
今年の大河ドラマの「どうする家康」よりはよっぽどありそうなのが恐ろしい。
選ばれた限られた人しか加入できない世界最高のステータスを自称するユナイテッドカードのプレミアムクラブ、いわゆる「ブラックカード」は年会費35万円とべらぼうに高いのだが、専任のコンシェルジェがつき、普通では予約もできない一流のホテル、レストラン、料亭を手配し、急なゴルフのラウンド、繁忙期のエアチケットの手配までしてくれる。まさに最強のブラックカード。
このプレミアムクラブが始めた心ゆくまで故郷を体験させると言う「ホームタウン・サービス」。全く縁もゆかりもないのだが架空の故郷に帰ると母が待っていて1日もてなしてくれる。多分場所のモデルは岩手県の過疎の村なのだろうが、その集落全体がホームタウンとして仕組まれている。
そこを利用するのは、世界的な食品会社の独身の社長松永徹、製薬会社の営業部長だったが役員になれずに退職した室田精一、大学の准教授だった古賀夏生。世間的には何の不自由もない身分の人ばかりなのだが、それぞれに葛藤があり、事情を抱えていて、父母に対しての満たされない思いを残している。
因みに「アメリカンエクスプレスカード」のブラックカードについては以前確か日経ビジネスの記事を読んだ記憶があって、私には全く縁がない世界ながらそんなカードがあると言う記憶はあり、あながち嘘ともいえない気分で読んでいた。
読後気になったので調べてみたのですが、「アメックスブラックカード」は「センチュリオン」と言い入会金55万円、年会費38.5万円。カードの取得はインビテーションのみで厳しい資格要件があり、こちらから申し込むことはできない。パーソナルコンシェルジェがついてホテルの手配だろうと航空券の手配だろうとVIP対応でしてくれる。日本で取得している人は約8千人とか。
この「センチュリオン」ならひょっとするとホームタウンサービスぐらいのことがありそうに思えます。
小説に戻ると今回利用する3人は丁度還暦を迎える年ごろで、この世代は故郷の両親をおいて東京へ出て来てそこで一生懸命頑張ってそれなりの地位を築いてきた。たとえ故郷がなくても周りにはそんな人が多く、心象風景としては故郷に対してある種の後ろめたさと憧憬があって、叶うのならばやさしい母が待っている理想の故郷が欲しい。
3人とも自分の両親はすでに亡くなり、松永徹と古賀夏生は独身。室田精一は退職を待っていたかのごとく妻から離婚を宣言されて今は独り身。だからこそ心描く理想の故郷の母を恋焦がれて、半信半疑ながらこのホームタウン・サービスを申し込んでしまう。因みにこのサービスは一泊2日税別50万円。普通に考えればバカバカしいのですが、そこで得られる心に響く体験と精神的満足は同じ値段で行くハワイ旅行と比べようもない。最初はだめもとで物は試しで申し込んだものが、3人とも故郷の母に魅せられてリピートしていく。
架空の故郷にいる母親ちよの何と魅力的なことか。一緒に暮らしている訳でなくそれこそ何年に一度の帰郷でもちゃんと変わらず愛情をもって受け止めてくれるかけがえのない母。虚構と分かっていても、虚構だからこそすがりたい理想の母がホームタウンにいた。年老いてそんな演技力があり状況を飲み込むことが出来るような人がいるのかとも思うのですが、みんな騙されてみたいからこそ細かいことは詮索せずに故郷に引き寄せられていく。
たぶんこれがもう1世代下になると自分自身も周りにも田舎を持つ人が少なくなり両親も都会暮らしとなって、こんな事業に興味もわかないのだろうが、還暦前後の世代はまだお尻に田舎の殻をつけている人が多くて、事情が許せば田舎暮らしがしたい人も多いのだろう。かく言う私は両親は田舎の出だが生まれてからずっと都会で暮らしていて田舎を持たない。強いて言えば母の実家が田舎(と言っても豊田で今では都市化されているのですが)で叔母さん(母の姉)は本当にやさしくて人が良くて、ここに出てくる故郷の母のような雰囲気を持っているので、私はおばさんをイメージしながら読んでいました。
このホームタウン・サービスは突然終了するのですが、そこはネタバレになるので興味を持った人は各自読んでみてください。
みんなは知らないけど知る人は知るで、ひょっとしたらこう言うこともあるかもしれないと思わせる天才的な嘘つきです。
今年の大河ドラマの「どうする家康」よりはよっぽどありそうなのが恐ろしい。
選ばれた限られた人しか加入できない世界最高のステータスを自称するユナイテッドカードのプレミアムクラブ、いわゆる「ブラックカード」は年会費35万円とべらぼうに高いのだが、専任のコンシェルジェがつき、普通では予約もできない一流のホテル、レストラン、料亭を手配し、急なゴルフのラウンド、繁忙期のエアチケットの手配までしてくれる。まさに最強のブラックカード。
このプレミアムクラブが始めた心ゆくまで故郷を体験させると言う「ホームタウン・サービス」。全く縁もゆかりもないのだが架空の故郷に帰ると母が待っていて1日もてなしてくれる。多分場所のモデルは岩手県の過疎の村なのだろうが、その集落全体がホームタウンとして仕組まれている。
そこを利用するのは、世界的な食品会社の独身の社長松永徹、製薬会社の営業部長だったが役員になれずに退職した室田精一、大学の准教授だった古賀夏生。世間的には何の不自由もない身分の人ばかりなのだが、それぞれに葛藤があり、事情を抱えていて、父母に対しての満たされない思いを残している。
因みに「アメリカンエクスプレスカード」のブラックカードについては以前確か日経ビジネスの記事を読んだ記憶があって、私には全く縁がない世界ながらそんなカードがあると言う記憶はあり、あながち嘘ともいえない気分で読んでいた。
読後気になったので調べてみたのですが、「アメックスブラックカード」は「センチュリオン」と言い入会金55万円、年会費38.5万円。カードの取得はインビテーションのみで厳しい資格要件があり、こちらから申し込むことはできない。パーソナルコンシェルジェがついてホテルの手配だろうと航空券の手配だろうとVIP対応でしてくれる。日本で取得している人は約8千人とか。
この「センチュリオン」ならひょっとするとホームタウンサービスぐらいのことがありそうに思えます。
小説に戻ると今回利用する3人は丁度還暦を迎える年ごろで、この世代は故郷の両親をおいて東京へ出て来てそこで一生懸命頑張ってそれなりの地位を築いてきた。たとえ故郷がなくても周りにはそんな人が多く、心象風景としては故郷に対してある種の後ろめたさと憧憬があって、叶うのならばやさしい母が待っている理想の故郷が欲しい。
3人とも自分の両親はすでに亡くなり、松永徹と古賀夏生は独身。室田精一は退職を待っていたかのごとく妻から離婚を宣言されて今は独り身。だからこそ心描く理想の故郷の母を恋焦がれて、半信半疑ながらこのホームタウン・サービスを申し込んでしまう。因みにこのサービスは一泊2日税別50万円。普通に考えればバカバカしいのですが、そこで得られる心に響く体験と精神的満足は同じ値段で行くハワイ旅行と比べようもない。最初はだめもとで物は試しで申し込んだものが、3人とも故郷の母に魅せられてリピートしていく。
架空の故郷にいる母親ちよの何と魅力的なことか。一緒に暮らしている訳でなくそれこそ何年に一度の帰郷でもちゃんと変わらず愛情をもって受け止めてくれるかけがえのない母。虚構と分かっていても、虚構だからこそすがりたい理想の母がホームタウンにいた。年老いてそんな演技力があり状況を飲み込むことが出来るような人がいるのかとも思うのですが、みんな騙されてみたいからこそ細かいことは詮索せずに故郷に引き寄せられていく。
たぶんこれがもう1世代下になると自分自身も周りにも田舎を持つ人が少なくなり両親も都会暮らしとなって、こんな事業に興味もわかないのだろうが、還暦前後の世代はまだお尻に田舎の殻をつけている人が多くて、事情が許せば田舎暮らしがしたい人も多いのだろう。かく言う私は両親は田舎の出だが生まれてからずっと都会で暮らしていて田舎を持たない。強いて言えば母の実家が田舎(と言っても豊田で今では都市化されているのですが)で叔母さん(母の姉)は本当にやさしくて人が良くて、ここに出てくる故郷の母のような雰囲気を持っているので、私はおばさんをイメージしながら読んでいました。
このホームタウン・サービスは突然終了するのですが、そこはネタバレになるので興味を持った人は各自読んでみてください。