著者は大和郡山市役所職員から国家公務員上級試験を受かりキャリア官僚として労働省に入り、その後ミシガン大学大学院留学後に新潟県の課長を務め、厚生労働省課長補佐を務めたのち退職。兵庫県立大学大学院教授を経て神戸学院大学教授となるという経歴です。
この履歴でわかるように、市の職員、県の職員、国家公務員、さらには県立大学教員といろいろなパターンの公務員の世界を経験しています。
当然ながら、公務員けしからん論による一方的な攻撃ではありません。現下の厳しい公務員バッシングの中で、いかにキャリア形成をして肝の据わった公務員になるか、キャリア国家公務員、ノンキャリア国家公務員、都道府県職員、市町村職員、それぞれの立場に即して提言しています。
読んでみて実態に即した納得できるものでした。しかし、さすがに指定都市は経験していないので取り上げていないのですが、権限においても待遇においても県職員と市職員の中間というかいいとこどり(でもないか)という点でどう考えればいいのか、これは読んだ人の考えることでしょうね。
実はこの本を読む前に著者の「天下りとは何か」も読んでいるのですが、自らの現在の立場上コメントをする気分にはなれませんでした。これも一方的なバッシングではなく天下りができてきた経過と理由もきちんと述べてあり、キャリア国家公務員の早期退職勧奨と裏表であること、それによってうまくいっていることもきちんと書いてあります。もちろん天下りの弊害もですけどね。興味のある人は読んでみてください。
この本に書いてあるのは、建前としての「全体の奉仕者」というだけでは生活者としての公務員が仕事にどう取り組むのかの心構えが具体的に浮かんでこないから、きちんとした仕事の哲学というと大げさで建前に流されそうですので実際に仕事をする時のリアリズムに基づく「指針」を持ちましょうということです。
ここ数年公務員バッシングは激しさを増している。政治主導の名のもとに官僚機構と対決し、既得権益の巣窟と攻撃している。いわゆる改革派の首長は守旧勢力として部下である公務員を攻撃して、民間原理を導入し、色々な部門を民営化することで人気を博してきた。
昔は国を動かしているとプライドを持ち、それこそ無制限に働いてきたキャリア官僚もそんな中、挫折感を味わい疲弊して来ている。
キャリア官僚は国家行政を担う専門家として専門知識を磨くことが必要です。自己啓発を怠ることなければ、優秀なキャリア官僚は民間企業だろうと大学教授だろうと研究者だろうと転職の機会はいくらでもあるのではないでしょうか。
キャリア官僚以外の公務員にはそれなりに優秀で努力している人も多いのですが、とんでもないダメ公務員も中にはいます。規定上はあっても分限免職などは伝家の宝刀で抜かれたことがないのですが、こういった職員がマスコミに公務員の象徴として格好の話題になっています。公務員の甘さは何があっても首は切られないという点に象徴的に出いていますから、この点は心して対処する必要があるでしょう。
ノンキャリアの公務員は内部チェックしかなく議会もないことから創意工夫を忘れています。実務の専門知識は持っているのですからよりアカデミックな自己啓発をすることによって役所と中小企業とのインターフェースとなることができます。
都道府県職員は日本最も中途半端なエリートと書かれると、思わずよく言ったとなります。高学歴でプライドもそこそこあるのですが、今の都道府県の位置づけから国の仕事をこなすことが大事で都道府県としての独自性はあまりなく、市町村のように住民と直接接しているわけでもないので、あまり達成感もない。出世も遅くて50歳で課長になれば御の字、人事評価もあいまいです。本当に中途半端です。指定都市の職員から見れば威張っているだけでほとんど無用に見えます。著者のいうように広域行政のプロデューサーとして地域ブランドを確立したり医療、教育、雇用について専門性を持って住民の連帯感を作ることが仕事の指針になるのでしょうが、指定都市から見ると余計なお世話になります。
ところで最近は市町村職員もどんどん高学歴化してきています。住民と直接接しているだけにバッシングの対象となりやすく「やる気がない」だのと「働かない」とよく攻撃されます。それなりに身分は保証されているのだから出世するよりも趣味に生きたほうがいい。でもそれではポピュリスト首長やマスコミからの批判は続きます。「全体の奉仕者」という建前ではなくて今求められているのは住民と真摯に向き合い自己啓発を怠らずに地域の専門家として特定分野のヒーローになること。地域に真摯に向き合うというのは結構勇気もいるし覚悟もいるのですが、その分やりがいもあるのでしょう…まずは「10年後に出版するぐらいの気持ちで街歩きを」
公務員バッシングは納税者から見た公務員、消費者から見た公務員という視点からされることが多い。現在の公務員はあまりにも世間にビビりすぎている。もっと自分の仕事に自信を持って物おじせずに仕事をさばいていく、そんな肚の据わった公務員になることです。
自らを省みて右往左往するだけでストレスをため居酒屋で愚痴を言っていた生活でしたが、これからの人たちには自己啓発を怠らず具体的な仕事の指針を見つけて、色々な場所で活躍していただきたいものです。