【鞍馬の竹伐り会式、魔除けとして小枝を腰に】
南天は漢名の「南天燭(なんてんしょく)」を略したものといわれる。「南天」はもともと中国の中部以南に自生していたことから、「燭」はその実が燭火(しょっか=ともし火)のように赤いことによる。平安初期に弘法大師(空海)が唐から日本に持ち帰ってきたという説もあるが、それより前の奈良時代編纂の「出雲風土記」に南天燭の表記が出てくる。いずれにしろ、日本には薬用としてかなり早く入っていたということだろう。
メギ科。「難を転じる」といわれる縁起植物で、鬼門に植えるといいという俗信がある。葉には殺菌・防腐効果があり祝儀用の赤飯などに皆敷として使う。以前は米櫃に入れたり、安産を願って床の下に敷いたりしたという。葉は生薬「南天葉」として解熱や健胃、乾燥した実は咳止めに利くそうだ。実が白いナンテンは「シロミナンテン」と呼ばれる。
ナンテンは京都・鞍馬寺の「竹伐り会式」(毎年6月20日)に欠かせない。僧兵が2組に分かれ大蛇に見立てた青竹を切る速さを競うが、僧兵たちは腰にナンテンの小枝を差す。由岐神社の「鞍馬の火祭り」でも松明を担ぐ若者の腰には魔除けのナンテンの小枝が差される。山梨祇園祭り(袋井市)では御輿渡御の時、天狗様(猿田彦)がナンテンの棒で沿道の人の頭をたたく。たたかれると1年間無病息災に過ごせるという。
大きく育ったナンテン材は床柱として使わることも。有名なのは金閣寺(鹿苑寺)の茶室「夕桂亭(せっかてい)」。当時の琉球王国(沖縄)から取り寄せたともいわれる。お正月の縁起物ナンテンの出荷量が最も多いのが、夏の「郡上踊り」で知られる岐阜・郡上八幡。「郡上南天」として人気が高く「ふるさと南天まつり」は奥美濃の冬の風物詩にもなっている。