く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「イギリス矛盾の力 進化し続ける政治経済システム」

2012年06月29日 | BOOK

【岐部秀光著、日本経済新聞出版社刊】

 長い低迷からかつて「英国病」「欧州の病人」と揶揄されたイギリスが、今また国際社会の中で存在感を発揮している。一方、わが日本はバブル崩壊以降すっかり元気がなくなり、このままでは「失われた20年」どころか「失われた30年」になるのではという閉塞感に覆われている。EU(欧州連合)の中心メンバーなのに共通通貨ユーロを使わずポンドに固執する伝統国家イギリス。「ゆりかごから墓場まで」といわれる福祉先進国でもあり、伝統と革新が共存する中でしたたかに変貌を遂げてきた。ロンドンなどでの長い取材活動を基に多くの事例を盛り込んだ本書は、「国のかたち」がなお定まらない日本の先行きを考えるうえでも参考になりそうだ。

    

 序章の「不思議の国イギリス」に続き、4つの章で政治、外交、経済、社会各分野での最新の動向を紹介。最後の第5章を「沈まぬ国の秘密―日本が学ぶべきこと」で結ぶ。イギリスでは若者が政治家を志すハードルが低く、日本のような地盤・看板・かばんは不要。「代わりに求められるのは政策を論理的に説明するプレゼンテーション能力と討論の技能、それに若さ」という。首相に就任した年齢をみると、サッチャー53、メージャー47、ブレア43、ブラウン56、そして現在のキャメロン43。改めて英政界トップの「若さ」に驚かされる。

 イギリス経済は通貨危機に見舞われた1992年のマイナス成長を最後に、日本とは逆に拡大期に入った。小さな島国がグローバル化に成功した背景を英エコノミスト誌編集長に聞くと、「外国人が来てイギリス企業を買いたいと言ったときに全く気にしない開放性だ」という答えが返ってきたという。外資の進出を〝侵略〟と受け止めがちな日本とは実に対照的だ。

 「イギリス企業は外資に買収されたり淘汰されたりして姿を消したかもしれないが、〝貸し座敷〟としてのイギリスそのものは繁栄を続けている」。いわゆる〝ウィンブルドン現象〟だ。今年も今ちょうど大会開催中だが、地元イギリスから男子は70年以上、女子も30年以上優勝者が出ていない。だが世界中から一流プレーヤーやテニス関係者、ファンが詰め掛け、大会そのものは大盛況である。イギリスの開放性は経済分野にとどまらない。サッカー・プレミアリーグでも2010年末現在20チーム中10チームのオーナーが外国人や外資という。「移民との共存に取り組んできたイギリスはもともと〝異質な要素〟に寛容だ」。

 「イギリスは状況に応じて自在に姿を変えることのできる〝カメレオン国家〟」ともいう。輝きを失わないのは多面性と変わり身の早さにあるというわけだ。では日本はどうか? 「日本の多くの問題は柔軟性が欠如していることが原因。終身雇用と年功序列に支えられた日本の硬直的なピラミッド社会では、大学入試や就職試験などでの一度の失敗が致命的と受け止められかねない。また労働市場に流動性がないことが衰退産業から成長産業への人の移動を阻んでいる」とみる。

 著者は日本が学ぶべき点として、このほかに①平等からフェアネス(公明正大)へ②トップダウンからボトムアップへ③失敗を前提にする④異質を受け入れる――などを挙げる。「失敗を許さない日本のシステムの硬直性と、失敗が前提のイギリスの柔軟性の違いは大きい。イギリス流失敗前提主義に立てば、計画立案に多大な時間をかけずに決断を下せるし、次善の策の検討や再チャレンジに時間を割くこともできる」という。異質の受け入れについては「異質な者を排除した凡人の集団は絶滅をただ待つほかない」。なかなか手厳しいが、小さな島国がグローバル化を果たすには外資や外国人労働者、そして海外からの難民の積極的な受け入れも避けては通れないということだろう。

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