【シーボルト、愛人名にちなんで学名を「オタクサ」に】
日本原産でユキノシタ科。万葉集にも大伴家持と橘諸兄の2首があるが、不思議なことに古今集や新古今集には1首も詠まれていないという。ようやく平安末期ごろから「よひら」や「四ひら」の名前で登場する。ガクアジサイが母種とされ、大別すると日本アジサイと西洋アジサイに分かれる。
アジサイの語源は藍色の小さな花が集まったという意味の「集真藍(あづさあい)」といわれる。日本アジサイにはヤマアジサイ、ベニガク、コアジサイ、エゾアジサイ、ヤクシマアジサイ、ツルアジサイ、フイリガクアジサイなどもある。西洋アジサイは中国経由で1790年に英国のキュー植物園に持ち込まれたのが始まり。19世紀に入ってヨーロッパ各国で盛んに品種改良されて赤や白、ピンクなどの大輪の花が誕生、日本に逆輸入された。西洋アジサイの別名「ハイドランジア」はギリシャ語の「ハイドロ(水)」に由来する。最近よく見かけるようになったカシワバアジサイは北米東南部原産。
花の色が時間の経過とともに薄い色から濃い色へ微妙に変化するため「七変化」や「八仙花」の別名を持つ。花の色は土壌の性質に左右され、一般的に酸性のとき青く、アルカリ性のときに赤くなるが、肥料成分の違いによっても変わるそうだ。窒素が多いと赤色が強くなり、カリが多いと青みを増すという。
医師で植物学者でもあったシーボルトはアジサイの学名に愛人の「楠本滝(お滝さん)」にちなみ「Otaksa(オタクサ)」と名付けた。牧野富太郎は最初これを長崎の地名と思ったらしい。それが愛人名と分かって「神聖な学名に情婦の名をつけるとはけしからん」とカンカン。ところが、当の牧野博士本人も後に発見した新種の笹に、妻の寿衛子にちなんで「Sasa Suekoana(スエコザザ)」と名付けた。
これを「学問に私情を差し挟むことは考えもの」と痛烈に批判したのが牧野を恩師と仰いでいたという故中村浩。著書「植物名の由来」の中にこう書き記した。「愛妻や恋人や情婦の名を残しておきたいというのは人情であろうが、後世の人にとっては無縁の人の名を憶えさせられることは全く迷惑なことといわなければならない」。