【名前の由来に諸説、有力な「口無し」説】
アカネ科。日本、中国、インドシナ半島などに分布し、風車のような白い6弁花のほか八重咲きのものもある。大輪で八重咲きのオオヤエクチナシ、鉢植えに向いた矮性のコクチナシ、葉の先端が丸く花が小さいマルバクチナシなどがある。熊本市黒髪の立田山ヤエクチナシ自生地は国の天然記念物に指定されている。
学名は「ガーデニア・ジャスミノイデス」。ガーデニアは「庭」の意味ではなく、米国の植物学者ガーデンの名前に由来する。英名も「ケープ・ジャスミン」というようにジャスミンに似た甘い芳香を放つ。特に夜半で多湿の時ほどよく匂うという。「ケープ(喜望峰)」と付いているのは最初、南アフリカ原産と誤ったためらしい。漢名は「梔子(しし)」または「巵子」。巵は酒などを入れる容器で、花の後の実がその形に似ていることによるという。
和名クチナシの由来には諸説あるが、有力なのが「口無し説」。実が黄色く熟しても裂開しないためという説だ。このほか黄色い実を果実のナシ、その先端に残る萼(ガク)を鳥の嘴(くちばし)に見立てた「口梨説」や「朽梨説」から、清楚な花と香気から「無言の美」を意味するのではないかといった説まである。クチナシには天敵がいる。スズメガの一種オオスカシバの幼虫。そのアオムシが葉の色にそっくりなため、油断すると葉を全部食べ尽くし、株が丸坊主になることも少なくない。
熟した実は「クロシン」という色素を含み、古くから染料や薬用、食品の着色料などとして利用されてきた。奈良県橿原市はそのクチナシを「市の花」に指定している。万葉の昔から大和三山の一つ、耳成山に群生していたといわれ、古代に「クチナシ染め」が珍重されていたことによる。静岡県湖西市や埼玉県八瀬市もクチナシを市の花に指定している。
20世紀を代表するジャズ歌手の1人、ビリー・ホリデイ(1915~59年)はクチナシをこよなく愛した。ジャズピアニストのデューク・エリントンと共演し、白人オーケストラと初めて共演した黒人女性歌手。「Lady Day(レディ・デイ)」と呼ばれたビリーは舞台に上がる時、必ず白いクチナシの花を髪飾りに使った。手元にある1枚のビリーのCDジャケット(上の写真)でも、2輪のクチナシで髪を飾っている。人種差別に遭いながら歌い続け、麻薬に溺れて44年の波乱の人生を閉じたビリー。そのビリーの心を唯一癒したのが、クチナシの花だったのかもしれない。