【万葉の時代には「芽」「芽子」で「ハギ」と読ませた!】
マメ科ハギ属。一般に「ハギ」というとハギ属全体を指すことが多いが、万葉集で歌われたハギはヤマハギのこと。庭木などとして最も多く植えられるのはミヤギノハギで、花期には枝先が地面に着くほどにしだれる。一方、ヤマハギや葉に丸みがあるマルバハギは花穂が短くほとんどしだれない。このほかツクシハギ、マキエハギ、メドハギ、エゾヤマハギなどがある。
万葉集にはハギの花に託して恋心などを詠んだ歌が多い。草木では最多の141首。ハギが古くからいかに身近な植物だったかが分かる。当時は「芽」や「芽子」と書いて「ハギ」と読ませた。山上憶良も秋の七草を「芽之花乎花葛花…(萩の花をばなくず花…)」と詠んだ。そんなところからハギの語源は、毎年古い株から勢いよく芽を吹き出すことを表す「生え芽(はえき)」が転訛したものといわれる。
このほか、小さい葉が歯の形に似ているところから「歯木」説、細長い枝が箒(ほうき)に使われることから「掃き(はき)」説、葉が黄色くなるのが早いため「葉黄」説などもあるそうだ。草冠に秋をつけた「萩」は日本で生まれた国字。秋を代表する花であることを示す。この萩の字が使われ始めたのは平安時代以降。中国で萩というと、別のキク科の植物を指すそうだ。
ハギのついた地名ですぐに思い浮かぶのが山口県萩市。その萩市にはハギが生い茂った山があったといわれ、ハギをツバキとともに「市の花」に制定している。宮城県の県花はミヤギノハギ(宮城野萩)。ハギは仙台市や福井県敦賀市、京都府福知山市などの市の花にもなっている。関西には奈良の百毫寺や薬師寺、京都の梨木神社、大阪府豊中市の萩寺(東光院)などハギの名所が多い。
なお「ハギ」とつく草花にヌスビトハギやヒメハギがあるが、これらはハギ属とは別もの。ヌスビトハギの名称は豆のさやが盗人の足跡に似ていることに由来する。日本に自生する在来種だが、これとは別にアレチヌスビトハギ(荒地盗人萩)という北米原産の外来種がある。草むらなどを歩くとズボンなどにさやがくっ付いて往生することがあるが、その犯人がこのアレチヌスビトハギ。近年ますます増殖しているから草むらなどに入るときは要注意だ。「低く垂れその上に垂れ萩の花」(高野素十)。