【曼珠沙華、イチジバナ、火事花、幽霊花、死人花、嫁の簪、舌曲がり……】
ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草。秋のお彼岸の頃に咲くことから、その名がついた。葉が出る前に茎が地面からすくっと立ち上がり、その先に燃えるような赤い花。昔から全国各地の田畑の畦道や土手などでよく見かけるが、古い時代に中国から渡来した帰化植物といわれる。別名の曼珠沙華(マンジュシャゲ)は「法華経」に出てくる梵語。天上に咲く花を意味するという。
万葉集に「道の辺のいちしの花のいちしろく 人皆知りぬ我が恋妻は」。この「いちしの花」が何を指すか諸説あるが、牧野富太郎博士のヒガンバナ説が有力という。ヒガンバナはこの他にも多くの別名を持つ。墓地によく生えているためか葬式花、幽霊花、死人花、地獄花。このほかに狐花、火事花、嫁の簪(かんざし)、イチジバナなど異名は数え切れないほど。アルカロイド系の有毒成分を含むことから、手腐り花、舌曲がり、痺(しび)れ花などとも呼ばれる。
鱗茎(球根)は生で食べると下痢や吐き気を催し、神経麻痺を起こすことも。田畑の畦道によく植えられたのもモグラや野ネズミの防除対策のためといわれる。鱗茎は水にさらし有毒成分を除くと良質のでんぷんが取れる。このため以前は飢饉の際の救荒食料になった。また漢方では「石蒜(せきさん)」と呼ばれ、去痰や吐き気止めの薬としても用いられる。日本では縁起の良くない不吉な名前が多いヒガンバナだが、西洋では「マジックリリー」などと呼ばれ庭花として好まれているそうだ。
同じ仲間に黄色花のショウキズイセン(鍾馗水仙、写真㊧)や白花のシロバナヒガンバナ(シロバナマンジュシャゲ、写真㊨)、ピンクのナツズイセン、オレンジ色のキツネノカミソリなどがある。このうち花弁の縁にフリルがつき上品な雰囲気のショウキズイセンは庭植えや鉢植え、切り花などとして人気が高い。シロバナヒガンバナはヒガンバナとこのショウキズイセンの自然交雑種といわれる。
秋分の日を中心に各地の名所では「彼岸花まつり」が開かれる。奈良県明日香村は22~23日。HPの開花情報によると、見所の稲渕の棚田は21日現在2~3分咲き。棚田の赤花に続いて、石舞台古墳の外堤では白花も咲き誇る。同じ「日本の棚田百選」では佐賀県小城市江里山地区も22日開催。長崎県大村市の鉢巻山は明日香村と同じ22~23日。神奈川県の小出川彼岸花まつり(藤沢市、茅ケ崎市、寒川町)は29日。小出川沿いの3キロにわたってヒガンバナが咲き誇る。このほか埼玉県日高市の巾着田、幸手市の権現堂堤では今、曼珠沙華祭りが行われている。「飛火野の飛火のひとつ曼珠沙華」(野田しげこ)。