【石段すれすれでストップ、その後は伊勢音頭を声高らかに】
奈良県広陵町にある櫛玉比女命(くしたまひめのみこと)神社で31日、秋祭り「戸たて祭り」の宵宮が行われた。見どころは「弁財天」「南」「的場」「萱野」の4地区から繰り出した自慢のだんじりの宮入り。1台ずつ早打ちの鐘と太鼓に鼓舞されるように、猛スピードで拝殿に向かって突進した。石段ぎりぎりで止める見事な〝技〟に、境内を埋めた観客から大きな歓声と拍手が送られた。
「戸たて」は漢字では「戸立て」または「戸閉て」。家の戸を立てて(閉めて)家族総出で祭りに参加したことにちなむ。だんじりは重厚な造りの2階構造で、上の前面に自治会や青年団の役員ら〝上乗りさん〟が黒の紋付袴姿で座り、下には鐘と太鼓の囃し方が乗り込む。鐘はお寺の梵鐘を小さくしたような高さ40cmほどの釣り鐘。神社の祭りに鉦でなく鐘の取り合わせがおもしろい。
だんじりの屋根には大きな御幣のようなものが飾られていた。獅子の髪を表わしており、ヒノキを薄く削った大量のカンナ屑で作っているという。屋根前面にある木彫りの獅子噛みもこの飾りで覆われて全く見えなかった。だんじりが神社に向かう途中、寄付やお酒の差し入れがあれば、家の前で綱の曳き手が代わる代わる伊勢音頭を披露した。だんじりの四隅には御神火のろうそくがともっていた。
宮入りは午後7時半から始まった。毎年順番が決まっているという。最初は神社のお膝元にある「弁財天」。拝殿脇の狛犬のそばで見物していたが、鐘と太鼓が早打ちになるや「ソーレッ」の掛け声と同時に突進してきた。迫力満点。30mほどの距離を十数秒でやって来た。止まるや手拍子に合わせて伊勢音頭。歌が終わると、曳き手は拝殿に折り重なるようになだれ込み、巫女さんのお祓いを受けていた(上の写真㊧)。
その後、「南」「的場」と続いたが、「的場」には女性の曳き手も交じっていた(上の上の写真㊨)。緩やかなカーブを描きながら徐々にスピードを上げ、拝殿の石段すれすれにぴたっと止まった(上の写真㊧)。見事! その直後、上乗りさんは「完璧!」と満面笑顔で曳き手たちと次々にハイタッチを繰り返していた。最後の「萱野」の宮入りは午後9時近くになった。最初の「弁財天」が宮入りしてから既に1時間半。この間、境内では鐘と太鼓が鳴り止まず伊勢音頭の歌もずっと続いていた。