【江戸時代の散華や版木、近年の〝美術散華〟など約250点】
「古都奈良の文化財」として世界遺産になっている元興寺(奈良市中院町)で、秋季特別展「散華の美」(10日まで)が開かれている。散華は法会で仏様を供養するために撒かれるもので、もともとはハスの花びらなど生花を使っていたが、いつの頃からか蓮弁を模した色紙になった。芸術性の高いものは特に〝美術散華〟と呼ばれる。この特別展では奈良や京都を中心に全国各地の寺院の散華や江戸時代の多色刷り版木など約250点を一堂に展示している。
国宝の元興寺極楽堂。特別展「散華の美」は国宝「五重小塔」や重文「阿弥陀如来像」などを展示した向かいの総合収蔵庫3階で開かれている
散華は江戸時代以前から思い思いの絵柄を描いた作品が作られていたが、近年は各寺にゆかりのある日本画家や版画家の原画をもとに木版で印刷した美術散華も増えている。展示中の散華にも東山魁夷、荒川豊蔵、平山郁夫、棟方志功、前田青邨、杉本健吉、小倉遊亀、片岡球子、丸山石根、梅原猛、田村能里子ら著名人の作品が並ぶ(下の散華は杉本健吉氏作の薬師寺の散華)。
元興寺は毎年、2月の節分会と8月の地蔵会のとき、国宝の極楽堂(曼荼羅堂)で散華を行っている。散華はこうした恒例の法会のほか、開祖の御遠忌や落慶法要、晋山式などを記念して作られることも多い。展示中の散華で古いものには長谷寺の「弘法大師1000年忌勅会曼荼羅供散華」(1834年)や「興教大師700回忌散華」(1844年)、法隆寺の「聖徳太子1300年御聖諱法要散華」(1921年)などがあった。
漫画や童謡から題材を取ったかわいい図柄のものを〝稚児散華〟と呼ぶ。会場には里中満智子、やなせたかし、赤塚不二夫、ちばてつやさんたちの作品も並んでいた。変わったところでは1922年に飛行機からばら撒かれたという散華ビラ。京都・西陣の民間飛行士・安井荘次郎氏が太秦広隆寺の聖徳太子1300年御遠忌法要に合わせ上空から撒いた。その文面は「御法要が広隆寺で厳修されて居ります。此の時に際し太子の御徳を拝謝し、謹みて機上より数十万の京都府民諸氏に宣伝申し上げます」。安井氏はその6年後、墜落事故で亡くなったという。
このほか、善光寺(長野)の「ダライ・ラマ法王招聘記念散華」、鎌倉宗教者会議の「東日本大震災~1年目の祈り~追悼・復興祈願祭散華」、一心寺(大阪)の「第11期骨仏開眼大法要記念散華」、法隆寺の「世界文化遺産条約登録記念散華」なども並ぶ。この展覧会はNPO法人美術散華保存会(奈良市)の協力で実現した。保存会の所蔵品に加え保存会が独自に制作した「三春の滝桜」「根尾薄墨桜」「大阪造幣局通り抜け」などの桜散華も展示されている。