く~にゃん雑記帳

音楽やスポーツの感動、愉快なお話などを綴ります。旅や花の写真、お祭り、ピーターラビットの「く~にゃん物語」などもあるよ。

<BOOK> 「楕円の江戸文化」(中西進著、白水社発行)

2013年11月16日 | BOOK

【パワフルな「かるた」の民衆+知の冒険者たち】

 著者・中西進氏は日本文学研究者で万葉集研究の第一人者。奈良県立万葉文化館名誉館長も務める。このほど俳優・高倉健氏らとともに文化勲章を受章した。本書は「パワフルな『かるた』の民衆」と「知の冒険者たち」の2部で構成する。筆者は江戸と京・大坂という2つの中心があった江戸時代を「楕円国家」と呼び、「その文化の波及運動はカム装置による運動としてとらえなければならない」と指摘する。

   

 前半の「パワフルな『かるた』の民衆」は『理念と経営』2009年1月号~13年1月号に「江戸いろは歌留多の知恵」のタイトルで連載したもの。江戸かるたを素材に、上方かるたと比較しながら江戸庶民の生き方を浮き彫りにした。例えば最初の「い」。江戸の「犬も歩けば棒にあたる」に対し上方は「一寸さきやみの夜」。「上方かるたがいかにも運命論者ふうなのに対して、江戸かるたがひどく現実派であるのが大違いでおかしい」。

 上方かるたが「上品で教養があって建前ふう」なのに対し、江戸かるたは「強烈な庶民感覚、お上へのからかいや反抗、生きている本音」が表れていると指摘する。「ろ」は江戸の「論より証拠」に対し上方は「論語よみの論語知らず」、「は」は「花より団子」と「針の穴から天をのぞく」。この「花のより団子」も「花だ紅葉だといって風流ぶっているおサムライさんよ、オレらはまずは餌でさあ」といった〝啖呵〟とみる。

 「ね」は上方の「猫に小判」に対して江戸は「念には念を入れ」。「いつもいつも、江戸かるたの落ち着く先は人間の悪意と、それに対する防衛策である……江戸かるたの絶望的な人間不信は悲しいが、尊い生き方の知恵である」と評価する。「わたしは、ほんとうに江戸かるたの一貫した庶民のエネルギー、お上への強い反抗精神、そしてみごとな知恵に、いつも感心してしまう」とも。

 後半の「知の冒険者たち」は『武道』2005年1月号~06年12月号に「道を拓く」として連載した。著者は17世紀から19世紀にかけての江戸時代は「大きな知を蓄積する時代」だったと振り返る。「古代天皇は仏教を立て、明治政府は国家神道を立てた。その中間に徳川政権の立てた儒教がある……知のあふれた江戸時代に、どう日本人が儒教を自分のものにしようとしたか」。

 その知識の変遷をたどるため、江戸時代に活躍した知識人・思想家24人を、生い立ちや著作を基に取り上げる。その中には徳川300年の官学となった儒学の始祖、林羅山や多くの門人を集め〝藤樹教〟とまでいわれた中江藤樹をはじめ、山鹿素行、貝原益軒、新井石、荻生徂徠、石田梅巌、本居宣長、杉田玄白、山片蟠桃、広瀬淡窓たちが含まれている。

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