【柳家紫文著、海竜社発行】
著者柳家紫文は三味線演奏家として歌舞伎座などに出演後、1995年に柳家紫朝に弟子入りし演芸に転向。その傍ら、全国各地で都々逸講座を開くなど都々逸の普及に努めてきた。著書に『紫文式 都々逸のススメ』など。都々逸の基本形は「七・七・七・五」。江戸時代の終わりに都々逸坊扇歌という芸人が寄席ではやらせたため「都々逸」と呼ばれるようになったという。
「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は 百合の花」。最初に出てきたのがこの有名な文句。えっ、これが都々逸? 続いて「ざんぎり頭を 叩いてみれば 文明開花の 音がする」。少し遠い存在のように思えていた都々逸が、意外と身近なことにびっくり。「人生の機微が乙に洒脱に『二十六文字』の中に表されており、そのエッセンスは現代を生きる私たちも深く共感し思わずうなずいてしまうものばかりです」(『はじめに』から)。
序章「知っておきたい名作都々逸」のトップバッターは「惚れた数から 振られた数を 引けば女房が 残るだけ」。続く「三千世界の 鴉(からす)を殺し 主(ぬし)と朝寝が してみたい」はあの高杉晋作の作とか。1~4章から印象に残ったものを以下に列挙――。「ガキの頃から イロハを習い ハの字を忘れて イロばかり」「三味線の 三の糸ほど 苦労をさせて いまさら切るとは ばちあたり」「こぼれ松葉を あれ見やしゃんせ 枯れて落ちても 二人連れ」「案ずるな 炊事洗濯 それだけできりゃ きっと見つかる 婿の口」「親の意見と なすびの花は 千にひとつの 無駄もない」
各章の間に「コラム」を挟む。それによると「全国の民謡の80%以上は七・七・七・五で都々逸と同じ」とか。歌謡曲にも多いとして、「リンゴの唄」「無法松の一生」「高校三年生」などを挙げる。落語の中に登場するのは「医者の頭に 雀がとまる とまるはずだよ ヤブじゃもの」「落語家殺すにゃ 刃物はいらぬ あくび一つで 即死する」などなど。最後のコラムは「寅さんだって、七・七・七・五」。フーテンの寅さんの口上は「けっこう毛だらけ 猫灰だらけ 尻のまわりは クソだらけ たいしたもんだよ 蛙の小便 見上げたもんだよ 屋根屋の褌……」。