【未知の212句収録の『夜半亭蕪村句集』も】
天理大学付属天理図書館(奈良県天理市)で19日から開館85周年記念展「俳人蕪村―生誕三百年を記念して」が始まった。江戸中期の俳人与謝蕪村(1716~83)に関する俳諧書や自画賛、書簡などの新収資料などを公開中。とりわけ注目を集めるのが『夜半亭蕪村句集』(写真㊨)。その句集自体が所在不明だったうえ、中にこれまで全く知られていなかった蕪村作の212句が収められていたからだ。
『夜半亭蕪村句集』は約80年前に一度一部が紹介されて以降、その所在が分からなくなっていた。4年ほど前に同図書館が古書店で入手したという。表題の「夜半亭」は蕪村の別号で、「春夏」と「秋冬」の上下2冊に1903句が収蔵されていた。筆録は安永・天明期(1770~80年代)に蕪村の門弟百池ほか1名によるものとみられる。所々に蕪村筆とみられる朱筆や墨書による書き入れがあった。
蕪村の句でこれまでに確認されていたのは約2900句。この『夜半亭蕪村句集』で見つかった逸句212句を加えると一気に約3100句となる。そのうちの1句「傘(からかさ)も化て目のある月夜哉」には「化物題」の表題が付く。化け物をテーマに句会を開いたときの作品だろうか。ほかに「我焼し野に驚や屮(くさ)の花」「蜻吟(ママ)や眼鏡をかけて飛歩行」など。「蜻吟」はトンボの古名の「蜻蛉(かげろう)」とみられる。
蕪村は画家としても活躍した。新収の自画賛墨画『炭売に』は師走の京の街で炭を売る老人の姿に「炭売に日はくれかゝる師走かな」の賛を添える。『ちる梅の』自画賛や『墨梅図』は太い幹や枝を躍動感ある筆致で描いている。蕪村は京都・祇園会の鉾山のために下図も描いた。『安永6年(1777年)7月9日付書簡』には依頼されていた放下鉾の水引幕の下絵ができたので取りに来るよう記す。その下絵による琴棋書画図を刺繍した水引幕は存在するが、下絵自体の行方は分からないという。
蕪村の師、夜半亭宋阿(巴人)の33回忌追善集『むかしを今』(蕪村編、安永3年=1774年刊)の序に、蕪村が若き日、師からこう説かれたと記す。「かならず師の句法に泥(なず)むべからず。時に変じ時に化し、忽焉(こつえん)として前後相かへりみざるがごとく有べし」。蕪村の自由奔放な作句姿勢の裏側には師のこんな教えがあったというわけだ。「大津絵に糞落し行つばめかな」。これは大坂横堀舟町の年寄宛ての『安永8年(1778年)2月23日付書簡』に記した近作発句6句のうちの1つ。そういえば俳聖松尾芭蕉にもこんな句があった。「鶯や餅に糞する縁の先」。記念展は11月8日まで。