【広重の「名所江戸百景」、写楽の役者絵、北斎の「富嶽三十六景」…】
奈良県立美術館(奈良市)で企画展「錦絵誕生250年―浮世絵版画 美の大世界」が開かれている。錦絵は明和2年(1765年)に江戸で浮世絵の多色刷り技法が確立され「東錦絵」として売り出されたのが始まり。今年はちょうど250周年に当たることもあって、全国各地で浮世絵展が企画されている。
奈良県立美術館は日本画家・風俗研究家の吉川観方(1894~1979)からの近世の日本画や浮世絵などのコレクション寄贈を機に開館したこともあって、全国有数の浮世絵収蔵拠点の一つとして知られる。今企画展では会期を前期(~11月9日)・後期(同11日~12月6日)に分けて、歌川広重の「名所江戸百景」全118点(うち2点は借用)をはじめ、葛飾北斎の「富嶽三十六景」2点、東洲斎写楽や歌川豊国の役者絵など逸品の数々を一堂に展示する。
喜多川歌麿の「隅田川舟遊」(㊤)は3枚続きの大判錦絵で、釣りを楽しむ男女や橋を行き交う大勢の人々が描かれており、江戸の活気と風情が画面にあふれる。広重は風景や花鳥のほか「魚尽し」シリーズとして様々な魚類も多く描いた。前期出品中の「魚尽し ぐじ、かさごと山葵」(㊦)もその1つ。ぐじはアマダイのこと。卓越した観察眼と表現力は見事というほかない。後期にも別の「魚尽し」2点が出品される。
歌川国芳の「人かたまって人になる」は何人もの人が集まって1人の顔を形づくる。「だまし絵」の1種で「寄せ絵」と呼ばれる。国芳はこの分野の浮世絵を得意とした。礒田湖竜斎の「雁来紅うさぎ」は葉鶏頭の陰に1匹の白ウサギを描いたもの。ウサギの輪郭や毛並みに墨線を摺る代わりに線をへこませる〝空摺り〟と呼ばれる技法でウサギの白さを表現した。
作者不詳の出品作に「四代目瀬川路考の死絵」というのがあった。死絵は歌舞伎役者などが亡くなったとき追善や訃報を知らせるために刊行された版画。路考の生前の舞台姿に「寒菊の寒にも入らず別れかな」という辞世の句が添えられている。浮世絵の中に描かれているものとして江戸時代のお歯黒用の化粧セットやキセル、エビ文様の櫛・簪(かんざし)の金銀細工なども参考展示されている。