
月曜は京都南座へ。
夜の部の「慙紅葉汗顔見勢(はじもみじあせのかおみせ)」俗に「伊達の十役」。
鶴屋南北作・現猿翁が復活上演した演目で、
今回は海老蔵が早替わりで十役を勤める。
ほぼ満員の入り。
幕が空くと海老蔵が座っており、
口上とあらすじの説明。
後ろに「善人方」「悪人方」として勤める十役の写真が貼ってあり、
それを指しながら説明していく。
分かりやすいと言えば分かりやすいのだが、少し野暮かな、という気もする。
「頑張って早替わりを見せる」てなことを言う必要はないのでは、と思うのだが。
上に松竹の紋と成田屋の三升の紋が交互に飾られていた。
発端は赤松満祐の幽霊が息子である仁木弾正
(ここに関係を持たせるのも荒唐無稽だが)に妖術を授ける段。
赤松満祐と言えば史実では足利義教を暗殺した大名であり、
ガマの妖術など様々な芝居で悪役と扱われるキャラクター。
この芝居では「ネズミの妖術」を仁木に授ける。
ここで「ネズミ」が出てきて、
満祐が「羽生村で鎌で殺された」という話になり、
何のことかと思っていたら「累」の話が重なってくる。
この場面の赤松と仁木、或いは絹川与右衛門(これも「累」に関わってくる)の
早替わりを見せる。
客席に顔を見せないところは吹き替えを使っているのだろう、と想像すれば
大体どのように入れ替わっているかは当たりが付く。
満祐はマイクか何か使っているようだったが、別に使わなくも、と感じた。
海老蔵の仁木はまあまあ。
与右衛門と満祐も少し違和感はあったが、そこまでおかしいという程ではなかった。
序幕は「花水橋の段」から。
この橋は元々の「伽羅先代萩」でも出てくるのだが、
まずは「生ならば大丈夫だが煎じたら毒になる」を持った医者を
侍が殺そうとしたが失敗したところ、
通りかかった「土手の道哲」なる悪い坊主が殺す場面。
この道哲も海老蔵なのだが、これはニンに合っていない印象。
発声方法、体の動かし方などが変で失笑が起こっていた。
足利頼兼はまあまあ。
元々仙台藩のお家騒動を描いた物語なので、
当然ここに三浦屋の高尾太夫が出てくる。
この高尾太夫の姉が腰元累であり、
累の夫が与右衛門である、というのが「累」の設定と重なってくるところ。
三浦屋では頼兼が入ったり高尾太夫が入ったり累が入ったり、と、
入れ替わりを見せる場面。
頼兼が「伽羅」の草履を脱ぐところ、「伽羅千代萩」に掛かっているんだな。
しかし早替わりは周囲の協力もあってこなせていると思うのだが、
高尾太夫にしても累にしても、それぞれの演技は全く満足できるものではない。
単に「早替わりしている」目先だけの芝居になっており、
それぞれの発声や足の使い方など、演技には見る意味がないくらい。
「早く替わってみせる」の繰り返しだけでなく、
それぞれの役についてもう少しは尤もらしく見せるべきではないだろうか。
徐々に失笑が洩れたり、
大向こうの声がなくなったり驚きの声が小さくなってきたのは、
この辺りが単に「早替わりする」目新しさ、
珍奇さを見せるだけのショーに堕してしまっていたからだと感じる。
返って奥座敷だが、
ここを舟のようにしつらえているのが趣向。
伊達の大名が舟で高尾太夫を斬ってしまった話が下敷きになっている。
ここでの土手の道哲と高尾太夫、累の入れ替わりは面白い。
それぞれの役は酷い演技だったが。
2幕目はこの足利頼兼のところに将軍家から姫君が輿入れしてくる場面。
土橋の堤の上でこの姫君を奪おうとしたり、
累に高尾太夫の亡霊が取り付いて姫君を殺そうとする場面。
(この姫君の輿入れがなければ、高尾太夫は殺される必要がなかった、という恨み)
ここで累が鎌を踏んだり歩けなくなったり、
顔が腫れたりするところが「累」とパラレルになっているところ。
だんまりや傘を使う累と与右衛門の絡み
(この二人もどちらも海老蔵であり、入れ替わりが発生する)など、
「累」と全く同じ。
ここでウケが徐々に小さくなるのも、やはり早替わりはしているが
それぞれの役の描写がいい加減で早替わりを見せるだけになっているからだと思う。
与右衛門と道哲の花道の入れ替わり(序幕だったか2幕目だったか)はスムーズ。
まあ、直前の与右衛門を二度目に見せる際に顔だけを見せているので、
下はその間に既に変えており、
花道で廻って変わる時にはあっさり替わり易くしているのだろう、と想像はついた。
傘には脱いだ服を隠しているようだし。
3幕目は「早替わり」メインではなく、
「伽羅先代萩」の「奥庭」と「床下」をほぼ忠実に写した幕。
「飯炊き」はなく、若君鶴千代と千松の空腹の話があり、
鳥で遊んでいたところに急に逃げたところから政岡が敵を見つけて落とし、
そこへ栄御前が入ってくる。
この芝居では栄御前は山名持豊(宗全)の奥方、という設定なんだな。
家橘の栄御前はまあまあだが、
右近の八汐が非常に憎たらしく、声の強弱、調子の付け方も良くて満足。
政岡は海老蔵だが、高尾太夫や累に比べると良かった。
確かに腰の動き、足捌きなどは粗も目立ったが、
2人の子に言い聞かせる際の「可哀想」という感情を籠めつつの諭し方、
実子が殺された際の一瞬の感情の爆発とそれを抑える様子、
栄御前に打ち明けられている際の体の形や
最後の我が子の死骸を抱いてのクドキなど、
ある程度糸にも乗ってきっちりと演じていたように思う。
床下に潜って男之助がネズミを踏まえ、
その後仁木に替わってすっぽんから上がる。
男之助は若干声が細いかな、とも感じるが、
荒事らしい底抜けた雰囲気は悪くない。仁木もまあ良かった。
仁木は宙乗りで去っていくが、やはり宙乗りは面白い。
ただ、一度すっぽんから上がって、それからロープを付けて宙乗り、という流れが
少し間延びするように感じられるので、
可能であればすっぽんの底でロープを付けて
そのままフワフワといつの間にか宙を歩いていくようになると
尚良いのでは、と思う。
4幕目は、足利の国家老が管領である山名に仁木やらの罪状を訴え出るが、
山名は仁木らと結託しているのでこれを取り上げようとしない。
ここに海老蔵の細川勝元がやってきて捌いて見せる場面。
これも声に少し難があるが、爽やかな雰囲気は流石。
数日後正式な裁断がある、ということで
問注所の表でのやりとり、
裁断の後での問注所の中での会話や仁木の大立ち回りになる。
表のやり取りでは与右衛門と
駕籠から出てくる勝元の早替わりは見事だった。
立ち回りでは仁木がネズミの妖術を使う、ということで
やたら大きなハリボテのネズミが出てくるスペクタクル。
ネズミの妖術は、与右衛門が子の年月が揃っているということで、
その男の血が付いた鎌(これが元々赤松満祐を殺した鎌)で切ることで
仁木の妖術が破れることになる。
仁木はもう少し「国崩し」の底知れぬ不気味さがあると良かった。
最後は細川勝元が出てきて大団円。
単に「早替わりを楽しむ」と考えれば悪くないが、
早替わりの中のそれぞれの役(特に女形系統)の演技はイマイチだと感じた。
「ついさっきまで出ていた人が」「よく替われるな」と感嘆するのは確かなのだが、
個人的にはさらに「同じ役者が全く異なる事柄を演じてみせる」
点も楽しみたかった。
声が変、と失笑を買うようではマズいだろう。
20時半頃終演。
【おまけ】
初代雁治郎と白井松次郎のレプリカ。

今までは何とも思っていなかったのだが、
渡辺保の「明治演劇史」を読んだ後だと
松竹の全国統一における南座の役割や雁治郎の役割が連想され、
興味深く感じた。