第四十九回日本老年医学会学術集会主催 市民向け公開シンポジウム講演要旨
<肺炎と口腔ケア>佐々木英忠秋田看護福祉大学長 欠かせぬ歯磨き 若い人の肺炎は外から入ってくる菌によって 起りますが、高齢者は自分の口の中の菌が原因ということがわか ってきました。唾液には殺菌能力があり、若い人の唾液を大腸菌を 培養したシャ-レに垂らすと発育を阻止します。ところが、高齢者 の唾液は大腸菌の発育を阻止するどころか、黄色ブドウ球菌が生 えてくる。つまり、口の中の衛生状態がわるくなっているのです。 お年寄りに口腔ケアをしっかりすると肺炎の発生率を減らせます。 毎日、口を歯ブラシできれいにするということは、肺炎予防に重要 です。歯のない人に対しても、歯磨きをすることで、歯のある人と同 じように肺炎を減らせます。
<動脈硬化から身を守る>北徹京都大教授 糖尿病に注意を 70歳代になると、急性心筋梗塞や脳梗塞で亡 くなる方が青年よりずっと増えます。コレステロ-ルや中性脂肪は 体にとって大事ですが、余分だと血管にたまって、動脈硬化になり ます。中性脂肪は、血液にあるリパ-ゼという酵素が働いて分解さ れますが、リパ-ゼの働きが悪くなる原因に糖尿病があります。 インスリンの働きが悪いと、リパ-ゼが働かず、中性脂肪がたまり、 HDL(善玉コレステロ-ル)ができないのです。もし医師に中性脂 肪が高くHDLが低いと言われたら、リパ-ゼの悪いと考え、糖尿病 があるかどうか調べてください。
<物忘れ予防と長寿>鳥羽研二杏林大教授 大切な心の健康 年をとると体も大事ですが、心が体を支えます。 入院患者でみると、朝起きて「おはようございます」とあいさつする 人は、呼びかけてようやく答える人や、返事しない人に比べ、はる かに長生きです。運動は七十代は週に3~4時間、八十代では 2時間程度が、活力を保つのにいいということがわかってきました。 認知症には、魚やポリフェノ-ルの含まれる食物(お茶や野菜、 果物など)も効果があります。物忘れ予防や生き生き長寿のこつは、 日常生活と食事、運動習慣にあると言えます。
<高齢者のやせと肥満>斉藤康千葉大副学長 しっかり食べて 長生きできるという指針は、若者と年寄りでは 違います。体格指数(BMI)と死亡率を見ると、二十代は(標準の 22より低い)21・4が最も死亡率が低くなりますが、六十代では 26・6です。年寄りは少し小太りがいい。やせてきた場合、体重が 5%減ったら、大変だと思ってください。適切なカロリ-をとってい るのかどうかが問題です。買い物に行きづらいなど食物を適切に 手に入れられるかどうか、吸収不良がないか、食欲がないなら、 うつ病や薬が原因となっていないか、ほかに病気はないか、味覚 障害はないかを調べます。しっかり食べられることが大切です。
<老年で元気に暮らす>井口昭久愛知淑徳大教授 積極的な思考を 米国の研究では、認知症は発症を後年に移す ことができます。「人生に対して常に積極的な思考がある」「コミュ ニケ-ションがよい」「社会の役に立ちたいと思っている」「運動習 慣がある」「栄養に注意している」人などです。元気でいるには、 老け込まず自尊心を持って生きる、人と比較しない、新しい経験を 楽しむ、ことが重要です。