万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

憲法改正気運の減退-自民党案も一因では?

2018年05月03日 14時10分31秒 | 日本政治
 世論調査というものは、その質問の設定によって一定の方向への誘導が可能である上に、データ操作によって必ずしも正確に世論を反映しているとも限らないのですが、憲法記念日を迎えるに当たって、憲法改正に関する世論調査を実施した新聞社も少なくないようです。日経新聞の一面にも調査結果が掲載されていましたが、同結果を見ますと奇妙な傾向が読み取れます。

 この奇妙な傾向とは、2012年4月の時点では、憲法改正派が50%に対して現状維持派が30%程の比率であったものの、2014年4月の調査を機にこの比率が逆転しており、現在では、現状維持派が優勢なままさらにその差が開きつつあることです。日本国を取り巻く国際情勢を見ますと、最早鋭い牙を隠さなくなった中国の軍拡著しく、北朝鮮危機も緊迫の度合いを強めております。2012年の時点と比較しますと、今日の方が余程差し迫った安全保障上の危機にあるとも言えます。ところが、世論調査の結果は、現状維持派の方が増加しており、改憲勢力が国会の3分の2以上を占めながら、憲法改正の気運は減退の方向あるのです。

 特に注目すべきは、2017年の調査にあって一旦上昇しかけた憲法改正支持派が、一年後の今年には反転して再度低落している点です。この一年こそ、上述した国際情勢の悪化に見舞われた時期であり、国家安全保障上の危機感の高まりは、憲法改正の追い風にはなっていないのです(北朝鮮の暴発により、日本国も同国の攻撃対象となるリスクは高い…)。その理由を探ってみますと、あり得る要因の一つとして挙げられるのが、自民党の改正案です。同改正案は、追記による自衛隊の合憲性の明記においては現行の第9条の曖昧さを解消しておりますが、軍隊の不保持や交戦権の否認を記した第2項の文言を残しており(一体、誰が、日本国の交戦権を‘認めない’のであろうか…)、占領期にあって敗戦国に科せられた‘ハンディキャップ’を踏襲しています。国際社会における‘一人前’の独立主権国家であることを自ら放棄しており、保守層からは、“かくも中途半端な改正であれば改正しない方がまし”との意見も聞かれるのです。

 無党派層でも現状維持派は52%に達していますが、このことは、自民党案が、保守化傾向が指摘されている一般国民の間からも支持を受けていない現実を示唆しています。否、国民の多くは、公明党を含む国内左派反日勢力のみならず、中国や韓国等の顔色を窺うような自民党の憲法改正案には落胆しているのではないでしょうか。制定から70余年を経て憲法改正のチャンスが巡っては来たものの、それを主権平等を原則とする国際社会における日本国の名実ともの’敗戦国’からの脱却、並びに、正常化に活かせない政界こそ、今日の日本国が抱える最大の問題なのかもしれません。

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コメント (6)
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