万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

北朝鮮は面倒で厄介な国

2018年05月27日 15時38分04秒 | 国際政治
トランプ大統領 米朝会談6月12日開催に期待
最近、ネット上の記事で「職場の面倒な人や厄介な人の特徴6つ」という記事を発見しました。この記事では、面倒で厄介な人を1)利己的な人、2)気分にムラのある人、3)批判的な人、4)無責任な人、5)好き嫌いで動く人、6)プライドの高い人の6つのカテゴリーに分類しています。

 同記事ではタイプ別に分類されているのですが、北朝鮮という国を見ますと、これら6つの特徴を全て兼ね備えているかのようです。そして、この6つの特徴の何れもが、突き詰めて行けば自己中心主義に行き着きます。人柄であれ、国柄であれ、自分中心的な考え方の持ち主は、他者を慮ることがありませんので、利用されるか、無視されるかの何れかとなる周囲の人々から見れば、面倒で厄介な存在なのです。社会一般であれば、こうした人々とは関わらなければそれで済むのですが、国ともなりますと、そうとばかりは言っていられません。

 ソ連邦の後ろ盾とした共産主義国家として誕生しながら、北朝鮮がかくも自国中心主義、否、独裁者中心主義に陥った要因として挙げられるのは、同国が独自に編み出した主体思想です。“主体”という言葉が示すように、そこには“客体”の発想が欠如しており、他国の“主体性”を尊重する意識もありません。この思想を単純化すれば、‘主体=国家全体=国家の最高指導者’となり、金一族独裁体制を支える政治的イデオロギーとして作用するのです。しかも、この思想には、カルト的な朝鮮半島の土俗宗教も入り混じっており、金日成、正日、正恩と続く三代の統治者に纏わる奇跡譚や神格化などは、まさしくその前近代性を露わにしています。

 主体思想に依って自己中心主義が増幅された北朝鮮は、一般の現代人から見ますと理解し難く、かつ、面倒で厄介な国です。トランプ米大統領が米朝首脳会談中止の意思を示したのに対して、本日も、金正恩委員長は、南北首脳会談の席で米朝首脳会談開催の「確固たる意志」を表明したと報じられております。会談とは、双方の意思の一致があってはじめて開かれるものですので、一方的な意思表明は無意味でもあります。一方が「確固たる意志」を持っていたとしても、他方が会談の席に就くつもりがなければ御仕舞なのですから。

 もっとも、同会談にあって、金委員長は、「朝鮮半島の完全な非核化」の実現についても意欲を示したとされています。仮に、この意味するところが、従来、北朝鮮が主張してきた「段階的な核放棄(核兵器の温存)」ではなく、アメリカが要求する「即時的(完全)な核放棄」の受け入れであるならば、上記の「確固たる意志」は、トランプ大統領が首脳会談の席に就く理由となりましょう。しかしながら、この表現は、“朝鮮半島の”という言い回しが付いているため、極めて微妙です。何故ならば、“北朝鮮の”ではないからです。つまり、北朝鮮は、基本方針の転換と見せかけながら、その実、“朝鮮半島の”を付すことで、南北両国の非核化路線、即ち、「段階的な核放棄」への誘導路を残している可能性があるのです。

 面倒で厄介な国が核兵器を保有してしまう事態は、北朝鮮以外の諸国にとりましては平和に対する脅威以外の何ものでもありません。果たして、アメリカのトランプ政権は、「段階的な核放棄」へと通じる逃げ道を塞いだ上で、利己主義の塊である金正恩委員長を自国の軍門に下らせることに成功したのでしょうか。6月12日に米朝会談が事無く開かれるとすれば、その可能性は決して低くはないように思えるのです。

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