万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日朝平壌宣言の罠-日本国が北朝鮮の核放棄を素直に歓迎できない理由

2018年05月05日 15時29分13秒 | 国際政治
北朝鮮核、拉致解決で協力 首相と主席が初電話会談
北朝鮮、並びに、その後ろ盾である中国は、北朝鮮の核・ミサイル問題を対米取引の材料にすべく、日本国政府にも積極的な働きかけを行っているようです。究極的な目的は、在韓米軍の撤退なのでしょうが、中国・北朝鮮、並びに、韓国が描く“朝鮮半島の非核化”のシナリオにおける日本国の役割とは、日朝平壌宣言の履行なのではないかと推測するのです。

 日朝平壌宣言とは、2002年9月17日に日本国の小泉純一郎首相と北朝鮮の金正日委員長との間で交わされた合意文書です。日本国内で出版されている『国際条約集』等にも収録されておりますが、その性格は限りなく‘密約’に近いものです。拉致被害者の方々の感動的な帰国と家族再会のシーンに隠れて影が薄く、国民一般に広く知られることはありませんでしたが、その内容は、今日読み返しても驚くぐらい日本国にとりまして不利なのです。

 第1に、その歴史観は村山談話を踏襲しており、「日本国側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」とあります。史実は、韓国併合は併合条約に基づくものであり、また、朝鮮半島の人々を搾取するような過酷な植民地支配ではありませんでした。ところが、同宣言では、“歴史の事実”と言い切っており、朝鮮半島側の“歴史認識”をそのまま受け入れているのです。

 第2に、日本国民に是非を問うこともなく、相互放棄としながらも、第二次世界大戦に関連した日本国、並びに、日本国民の請求権を勝手に放棄しているのです。1910年から終戦に至るまでの日本国による朝鮮半島の統治が搾取型ではなかった‘事実’は、日本国からの財政移転を伴う巨額の投資額が証明しております。特に、戦前において工業地帯であった北朝鮮地域には水豊ダムなどインフラ施設が建設されましたし、また、民間企業が残した産業施設や日本人の個人資産も相当額に上ります。冷戦期に締結された日韓請求権協定では、同盟国であるアメリカへの配慮から請求権は相互放棄されましたが、北朝鮮に対しては、日本国側の官民の請求権は残されていたのです。仮に相互放棄するならば、請求権を有する法人を含む日本国民の了解を得るのが筋と言うものです。

 第3として指摘し得るのは、北朝鮮に対する経済支援の約束です。日韓請求権協定時における経済支援は、冷戦下において東側と対峙する韓国支援の意味合いがありましたが、ソ連棒崩壊後も独裁体制を維持し、“東側”に属する北朝鮮に対しては、その必要性はありません。北朝鮮に対する経済支援の根拠は、皆無に等しいにも拘らず、小泉元首相は、対北支援を当然のことのように宣言に書き込んでいるのです。

 以上に述べたように、2002年9月の小泉首相訪朝に伴う日朝平壌宣言では、然したる根拠もなく日本国側による一方的な対北経済支援が記されたのですが、翌2003年8月から、中国主導の下で六カ国会議が始まったことは注目に値します。このタイミングを考慮しますと、中国、並びに、北朝鮮は、1994年の米朝枠組み合意が破綻した直後から、核・ミサイル開発問題を先鋭化させてアメリカを交渉の場に引出し、米朝国交正常化の実現によって経済制裁を解除させて上で、北朝鮮を‘改革開放路線’に転じさせると共に、その資金は、日朝国交正常化に伴う日本国からの莫大な経済支援で賄おうとするシナリオを描いていたとする推測も成り立ちます(もっとも、中国が北朝鮮の非核化には積極的である一方で、北朝鮮は核放棄には消極的であったのでは…)。日朝平壌宣言は、いわば、凡そ20年も前から巧妙に仕組まれていた‘罠’とも考えられるのです。そして今日、中国が日本国への接近を強めている様子からしますと、上記のシナリオに日本国を引き込み、平壌宣言を履行させることで、資金提供国にさせようとしているのではないか、とする疑いが湧いてきます。

同宣言は‘密約’的な色彩が濃く、北朝鮮側が違反行為を繰り返している以上、既に死文化しております。日本国政府には、同宣言を履行する法的義務はないのですから、ゆめゆめ、‘罠’に嵌ってはならないと思うのです。

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コメント (2)
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