万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘進も地獄退くも地獄’の北朝鮮-アメリカが一枚上手?

2018年05月17日 15時43分30秒 | 国際政治
「米朝首脳会談中止なら圧力続ける」 米報道官
 米韓共同軍事演習の実施を平和路線に対する逆行として批判した北朝鮮は、6月12日に予定されている米朝首脳会談の中止を匂わせております。北朝鮮側の突然の態度硬化によって、米朝首脳会談の行方は不透明感を増すこととなりましたが、この状況で、追い詰められるのは北朝鮮なのではないでしょうか。

 北朝鮮側としては、トランプ米大統領に対するノーベル平和賞授与の声やマスメディアの平和解決ムードの流れから、米朝首脳会談のキャンセルは、効果的な対米カードであると読んだのでしょう。しかしながら、北朝鮮の期待通りとはいかず、アメリカ側の反応はいたって冷やかであり、フォックステレビに出演したホワイトハウスのサンダース報道官は、“米朝首脳会談の開催に向けて準備を進めるが、仮に中止となった場合には圧力を継続するのみ”といった趣旨の説明をしています。つまり、北朝鮮は、アメリカに対して牽制したつもりが逆に牽制され返される展開となったのです。

 ‘進むも地獄退くも地獄’という言葉がありますが、北朝鮮が置かれている現状は、まさにこの状態です。米朝首脳会談の席に就いても、そこでは、アメリカからの厳しい要求が待っており、同会談を蹴っても、軍事制裁に繋がりかねない制裁強化という窮地が待ち受けているからです。どちらを選択しても‘地獄’であり、むしろ、アメリカの巧妙な戦略を前にして、‘より悪くない方’を選ぶしかない状況なのです。

 とりわけ、北朝鮮をして米朝首脳会談のキャンセルを口走らせた要因は、おそらく、半年以内とも報じられている核兵器の国外搬出等を含む‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’の要求であったことは想像に難くありません。今般の中止発言でアメリカは、結局、中朝が主張してきた‘段階的核放棄案’を受け入れるのでは、との予測もありますが、イランと北朝鮮とで基準を変えるダブル・スタンダードをとれば、イランからの反発は必至でしょうし、あれほど前政権の‘戦略的忍耐’との決別を訴えてきたトランプ大統領が、過去の失敗を自ら繰り返すとは思えません。そして、非核化受け入れの‘見返り’としての経済支援も、アメリカによる北朝鮮のエネルギー・インフラのコントロールを意味しかねないのですから、米朝合意の成立は、主体思想の下で‘自主独立’を強く内外に誇示してきた北朝鮮にとりましては痛手となりましょう。

かくして首脳会談の開催を選択しても、決裂の可能性を含めて北朝鮮にとりましては‘地獄’なのですが、米朝会談を中止しても、行く先はやはり‘地獄’です。アメリカは、対北制裁の手を決して緩めず、さらなる制裁措置を追加するでしょうし、中国に援けを求めても、ここでも、中国による北朝鮮の経済支配が待ち受けております。

 結局、北朝鮮は八方塞となり、‘進むも地獄退くも地獄’の状態に置かれているとしか言いようがないのです。韓国のみが頼りなのかもしれませんが、米韓同盟が韓国に対する錘となっておりますので、今般の一連の動きを見ておりますと、やはり、アメリカの方が一枚上手なのではないかと思うのです。

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