万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米離脱後でもイラン核合意は維持できるのか?

2018年05月09日 15時29分04秒 | 国際政治
英仏独の首脳「遺憾と懸念」 米国のイラン核合意離脱に対し 
トランプ米大統領によるイラン核合意離脱の決断は、イランを含め関係諸国に衝撃を与えております。離脱の報を受けたイランのハッサン・ロウハニ大統領は、早々、アメリカを除く核合意の当事国との間で事後策を協議する意向を示しておりますが、アメリカ抜きで核合意を維持することはできるのでしょうか。

 英仏独の欧州三カ国、並びに、中ロの五か国が核合意の維持を望む背景には、石油、並びに、天然ガスの世界有数の産出国であるイランの経済利権が絡んでいることは疑いなきことです。これらの諸国にとりましては、核合意成立後の経済制裁解除によって獲得した利権は、何としても手放したくないのでしょう。これらの諸国は、NPTに支えられている核不拡散という国際社会の大義を脇に置いても自国の経済的利益を追求しているのですから、この側面においては、トランプ大統領の唱えた“アメリカ・ファースト”以上に自国優先主義であると言えます。

 イラン、並びに、他の五か国は、アメリカが合意から離脱しても、他の五か国がイラン産原油や天然ガスを積極的に調達すれば、何らの問題もないと読んでいるかもしれません。イランには外貨獲得のルートが残されることとなり、経済制裁の効果は著しく薄まると同時に、ロイヤル・ダッチ・シェルなどの欧州系メジャーの石油利権も確保できます。また、経済制裁の再開によって米系メジャーや企業がイランから撤退すれば、欧州系や中ロにとりましては、同地での取引拡大のチャンスとなる可能性も否定はできないのです。

 しかしながら、アメリカなしの枠組み合意維持は、これらの諸国の期待通りの方向に進むのでしょうか。アメリカによる経済制裁の効果については、ロウハニ大統領がウラン濃縮の「無制限」再開を示唆したことからも窺えます。仮に、他の五か国との取引維持によってイラン経済に何らの支障も来たさないならば、核開発再開を脅し文句とした対米脅迫とも解される発言はないはずです(それとも、最初から核開発は再開させるつもりであり、米離脱を口実に本心では合意を破棄したい?)。イランは、アメリカによる経済制裁が自国に与えるダメージの深刻さを熟知しているからこそ、核開発再開を持ち出してまで、アメリカに離脱を思い止まらせようとしているとしか考えられないのです。

 そして、アメリカの離脱決定は、イラン、並びに、他の五か国の核放棄への本気度を試す機会ともなります。仮に、核合意において凍結の期限とされた2025年以降にイランが開発を再開した場合、合意を維持した他の五か国は、アメリカのみならず、国際社会からも厳しい批判に晒されることとなりましょう。また、英独仏は、核合意の不備を問題視してイランに再交渉を求める姿勢を見せていますが、イランが再交渉を拒否する場合には、これらの諸国もアメリカに続いて離脱を決定するかもしれません。

特にアメリカと英仏独は共にNATOのメンバーでもありますので、イラン核合意をめぐる立場の違いは、中ロによる米・欧州分断作戦に利用される可能性もあり、近い将来、安全保障上の理由から欧州諸国がこの件に関してアメリカとの協調と関係改善を迫られる場面も想定されます。もちろん、ロウハニ大統領の発言通りにイランが核開発を再開させれば、即、核合意の枠組は完全に消滅するのですが、何れにしましても、アメリカ抜きのイラン核合意の維持は、極めて困難なのではないかと推測するのです。

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