万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

米朝首脳会談-奇妙なイアン・ブレマー氏の‘日本単独敗者論’

2018年05月19日 14時55分53秒 | 国際政治
 米朝首脳会談の先行きに不透明感が増す中、5月18日の日経新聞朝刊の「グローバル・オピニオン」欄に、米朝交渉に関するイアン・ブレマー氏の論考が掲載されておりました。ブレマー氏と言えば、『スーパーパワー-Gゼロ時代のアメリカの選択』の著者としで知られますが、驚くべきことに、この記事の中で同氏は‘日本単独敗者論’を展開しているのです。

 ブレマー氏に依れば、米朝合意において日本国を最大の敗者と見なす理由は、アメリカが、核放棄交渉を継続協議とした上で、ICBMの恒久的発射停止を約束しさえすれば、米朝合意は、アメリカのみならず、北朝鮮、韓国、並びに、中国に勝利をもたらすと見なしているからです。この妥協案は、先日、トランプ大統領が離脱を決定したイラン方式に近く、事実上、アメリカが北朝鮮の‘完全、検証可能かつ不可逆的な核廃棄(CVID)’を諦めることを意味します。北朝鮮は、既に保有している核を温存させることができますし、状況次第では、ICBMの開発再開させることができるからです。

 同氏は、この妥協案を以ってアメリカを勝者と判定しておりますが、果たして、北朝鮮に核保有・ICBM開発再開のカードを残した合意は、アメリカにとりまして勝利なのでしょうか。94年の米朝枠組合意や六か国協議の先例を見れば、三度目の失敗となることは目に見えております。北朝鮮は、過去において国際的な合意を悉く破ってきておりますので、たとえ交渉の末にアメリカ側が折れて米朝合意に至ったとしても、それがその場しのぎの‘口約束’となる可能性の方が遥かに高いと言えます。

 ブレマー氏は、ユーラシア事情に詳しい専門家であることを考慮しますと、北朝鮮が合意を遵守する誠実な国ではないことを十分に承知しているはずです。それにも拘らず、北朝鮮に有利な合意を以ってアメリカの勝利と見なすのは、極めて奇妙な見解と言わざるを得ないのです。合理的、かつ、客観的な視点に立てば、この手の妥協は、中途半端な譲歩を以って信じてはならない相手を信じたアメリカの外交的な敗北であり、将来的にはミュンヘンの宥和に匹敵すると評されても致し方のない失策となるのではないでしょうか。

 このように考えますと、仮に氏の想定する妥協案が成立した場合、北朝鮮、中国、韓国の三国が勝者とはなっても、日本国が単独で敗者となるわけではなく、アメリカもまた、敗者に列するはずです。譲歩するのは、北朝鮮ではなくアメリカなのですから。ブレマー氏の見解には、多々、中国寄りの姿勢が見えるのですが、今般の論考も、あるいは中国側の希望的な観測を代弁しているだけなのかもしれません。そして、北朝鮮の中距離核兵器の脅威に晒され続ける日本国に対して、いとも冷淡に単独の“敗者”と言い切る姿にも、中国、並びに、親中勢力の影が見えるように思えるのです。

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