万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日大アメフト悪質タックル問題-まずは事実確認を

2018年05月24日 16時17分10秒 | 社会
内田氏「指示ない」井上氏「間違った解釈」
先日、日本大学のアメリカンフット―ボール部の選手がゲーム中に極めて危険な反則行為を働き、関西学院大学のQBの選手に対して全治3週間の怪我を負わせる事件が発生しました。事態の深刻さと波紋の広がりから、加害者の学生が事の一部始終を記者会見で語る一方で、日大側も、内田監督と井上コーチによる会見を開いたのですが、同選手に全責任を押し付けんばかりの弁明であったため、マスメディアやネットにおいて‘集中砲火’を浴びています。

 確かに、この問題、組織におけるパワハラ問題を象徴しております。多くの人々が頭に描く構図とは、同チームにおいて絶対権力者として君臨している監督とコーチによる度重なる嫌がらせを受けた選手が、追い詰められた末に已むに已まれず、指示通りに反則行為を実行したというものです。しかも、権力を握る強者の側が、事件の責任を弱者の側に転化しようとしたのですから、この構図は、弱者を苛め抜く許し難いパワハラ以外の何者でもありません。監督とコーチが世間からの‘つるし上げ’に会うのも、理解に難くはないのです。しかしながら、その一方で、犯罪性が問われる事件に関しては、以下の点から客観的な事実確認の作業を経る必要はあるように思えます。

第1に、日大側と選手側とでは、‘潰す’の解釈をめぐって主張が平行線を辿っております。監督とコーチの両者とも‘潰す’という言葉を使ったことは認めながら、それは、‘反則をせよ’という意味ではなかったと説明しています。この事件は、‘潰す’という言葉をめぐる両者の解釈の齟齬、あるいは、選手側の誤解から生じた、いわば、偶発的な事件であったのか、否かは明らかにしなければなりません。

 第2に、第1の疑問を解くには、‘潰す’発言の前後の文脈を丁寧に見てゆく必要があります。何故ならば、同選手は、コーチが「相手のQBがケガをして秋の試合に出られなかったら得だろう」と発言したと証言しているからです。仮に、この‘ケガ発言’が事実であれば、同コーチは、明らかに反則はおろか傷害を教唆しており、選手側が‘潰す=反則’と受け取っても致し方ありません。ところが、日大側の記者会見では、コーチはこの発言を覚えていないとしており、真偽は不明です。

 そして、第3に、同選手は、内田監督自身が6日の試合後に「こいつの(反則)は自分がやらせた。成長してくれるんならそれでいい。相手のことを考える必要はない。」と、反則支持を認める発言をしたと述べている点です。この発言についても、日大側の記者会見では否定されており、事実の確認を要します。週刊誌では、試合後の同監督のものとされる、「内田がやれって言ったってホントにいいですよ。全然。内田がやれって言ったでいいじゃないですか」という、自らの指示を認めたかのような発言を掲載しております。もっとも、“私が反則を指示しました”というストレートな言い方ではありませんので、‘本当は反則を指示してはいないけれども、自分がしたということでも構わない’とも解されます。つまり、‘勝つためには何をやってもよい’とする、スポーツマンらしくないアンフェアな思考回路が仇となって、同監督が反則指示を認めるような発言を思わず漏らしてしまった可能性も否定はできません。

 関西学院大学の被害選手の父親の方は、刑事告訴を辞さない構えのようですので、そうであればこそ、なおさら他の選手達の証言を含め、事実確認は重要となります。加害選手側の発言に虚偽や思い込みは絶対にない、とは言い切れない以上、この問題は、公平・中立な立場にある司法等の機関の手に委ねるべき案件なのではないでしょうか。もっとも、そうは申しましても、上述したように、仮に同監督が「相手のことを考える必要はない」と心の底から考えているとしますと、負傷した選手の、そして、加害者として生きねばならない選手の人生に対する思いなど微塵もなく、その道徳心の欠如と冷酷さは空恐ろしい限りではないかと思うのです。

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コメント (4)
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