万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

憲法第9条改正問題-自衛隊という表現への素朴な疑問

2018年05月06日 16時04分28秒 | 日本政治
 憲法第9条については改憲問題の核心にありながら、この条文をめぐる様々な問題点が取り上げられ、議論が十分に尽くされてきたとは言えない状況にあります。今般の自民党の改正案についても、自衛隊の合憲性が明記される点が強調されつつも、根本的な問題には踏み込んではいないように思われます。

 当初発表さえた自民党案での第9条の改正条文は、2項を削除した上で1項に2を設け、「…前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」と明記した上で、2項(二)として‘国防軍’に関する項を新設するというものでした。つまり、自衛隊の名称は‘国防軍’に変更されており、‘軍’の一文字を以って軍隊であることを明確にしているのです(さらに3項を設け、国の役割として領土等の保全を定めている…)。

 一方、今般の自民党の改正案では、2項の条文がそのまま維持された上で、…

「前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。」

…とする9条の2が‘加憲’されています。この案では、自衛隊の名称がそのまま使われており、当初案より軍隊としての性格が薄められているのです。ところが、軍隊を持たない国は、ローマ教皇を元首とする宗教国家であるバチカン市国を除いて存在していません。しばしば軍隊の放棄を謳ったコスタリカ憲法が引き合いに出されますが、放棄しているのは常備軍のみであり、全米相互援助条約や攻防の目的のためには、軍隊を組織することが可能なのです(コスタリカ憲法第12条)。

 護憲派は、加憲案は日本国憲法上の原則禁止の例外規定を設けるようなものであり、自衛隊が実質的には制約なき軍隊と化すとして反対しておりますが、この主張こそ、戦後、日本国が置かれてきた国際社会における異常な地位を物語っております。何故ならば、軍隊不保持という憲法上の原則こそ、国際社会においては例外中の‘例外’であり、護憲派による加憲案の解釈に従えば、国際社会の原則が日本国憲法にあっては‘例外’であるからです。つまり、日本国と国際社会では軍隊に対する原則が真逆であり、第9条こそ、日本国の倒錯した軍隊意識を象徴しているのです。

 来るべき憲法改正では、日本国憲法を国際社会の原則に合わせるべきところが、自民党案ではこの捩じれを解消しておらず、このため、護憲派の回りくどい主張が示唆するように、同問題に起因する‘神学論争’は延々と続くことになりましょう。本来、‘自衛隊’という名称の適切さこそ最初に問われるべきであり、防衛軍であれ、日本軍であれ、軍隊という国際社会における当然の表記を憚る心情にこそ、戦後の政界に蔓延った正面から問題と対峙ようとしない‘事なかれ主義’、あるいは、’ダチョウの平和’的な思考停止が垣間見られるように思えるのです。

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コメント (8)
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