万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ウクライナ紛争の‘アジア・シフト作戦’に注意を-第三次世界大戦への道?

2023年04月18日 12時43分33秒 | 国際政治
 先日、ロシアとの戦争が泥沼化する中、ウクライナの国家汚職防止庁(NAPC)は、中国のスマートフォン大手のシャオミ並びに同社の幹部を「戦争支援者」のリストに加えたとする報道がありました。「戦争支援者」とは、同国によって、交戦相手国であるロシアを経済的に支援していると認定された企業を意味します。日本企業を含め、全ての国家が対象となるのですが、時期が時期であるだけに、中国企業をターゲットとしたことには、深謀遠慮があるように思えます。

 ロシアによる軍事介入後にあって、自由主義諸国の企業が対ロ制裁の一環としてロシア市場から撤退する中、中国企業のシャオミは、ロシアでの自社製品の販売を継続し、今では、同国のスマートフォン市場において最大のシェアを占めています。ウクライナ側は、シャオミによるロシア国内におけるビジネス拡大を間接的な戦争支援行為と見なし、今般、改めて同社を「戦争支援者」として認定したと言うことになりましょう。なお。ウクライナは、現在、中国国有建設工程株式会社や米国の消費財大手Procter & Gamble等を「戦争支援者」リストにアップし、シャオミで22を数えることとなります。

 それでは、シャオミ側の反応はどうでしょうか。ウクライナによるリスト追加に対して、シャオミ側は、「いかなる戦争行為も支持しない、完全に世界平和を受け入れる」と述べた上で、革新的な技術の提供により全世界の人々の生活を楽しめるよう、各国の法令に従ってビジネスを行なっている点を強調しています。‘全世界’や‘法令遵守’の言葉からしますと、同社は、ウクライナによる「戦争支援者」指定をものともせず、今後とも、ロシアでのスマートフォン販売を継続する姿勢を示したと言えましょう。

 ところで、ウクライナと中国との関係を見ますと、親ロ派のヤヌコーヴィチ政権時代とはいえ、2013年12月には「ウクライナ友好協力条約」が締結されています。核の領域に限定されてはいるものの、両国は‘準軍事同盟関係’にあるのです。今年2月24日に習近平国家主席が和平案を公表した際に、アメリカのバイデン政権が一蹴したにも拘わらず、ゼレンスキー大統領が留保的な態度を示したのも、中国との特別な関係を考慮したからなのでしょう。また、同大統領は、習主席との会談にも前向きとの報道もあります。

 その一方で、当の中国は、3月20日における習主席のロシア訪問とプーチン大統領との会談を機に、ロシア陣営に加わったかの印象を与えています。両国のトップ会談では、ウクライナ紛争に関する和平案も話し合われたとされますが、おそらく、台湾問題も議題に上がったことでしょう。すなわち、中ロの関係強化は、二度の世界大戦を想起させる陣営対立の構図を強めたのであり、それは、アジアへの戦火拡大を含意していたとも言えましょう。

 こうした中ロの関係強化と歩を揃えるかのように、米中関係も悪化の一途を辿っています。台湾の馬英九前総統が中国を訪問した直後に蔡英文総統がアメリカを訪れ、マッカーシー上院議長と会談するなど、米台結束を積極的にアピールしています。同時に、台湾周辺海域では人民解放軍が活発な動きを見せるようになりました。蔡総統訪米の報復として実施した軍事演習については、中国国営テレビは、4月8日から10日にかけて「統合作戦指揮センターの統一的な指揮の下、複数種類の部隊」による「台湾に対する正確な攻撃のシミュレーション」を行なったと報じています。同軍事演習は、空母「山東」も参加した‘台湾封鎖’のシミュレーションであったそうです。同演習に対しては、アメリカも、4月17日に誘導ミサイル駆逐艦「ミリウス」に台湾海峡を通過させることで応じ、目下、米中間のチキンレースの様相を呈しているのです。

 仮に、世界権力が世界を二つの陣営に分けて戦わせる世界戦争、即ち、第三次世界大戦を誘導し、これと平行して、全世界の諸国における戦時体制という名の全体主義かを進めているとすれば、ウクライナと中国との友好関係は障害となるはずです。両国間の関係が維持されますと、世界はきれいに二つの陣営に分かれないからです。また、ウクライナ紛争の経緯を見ておりますと、ゼレンスキー大統領も、一貫してNATOを巻き込み、紛争の世界大戦化を志向しているように見えます。ウクライナ紛争そのものが、世界大戦誘発シナリオの一部であった可能性もありましょう。

 こうした観点から見ますと、中ロ結束が凡そ確定したことから、ウクライナ、あるいは、その背後に潜む世界権力は、自らの対中政策の変更を「戦争支援者」リストへのシャオミ追加という形で表明したのかもしれません。この背景には、ウクライナ紛争を(1)当初のシナリオ通りに台湾有事を機にアメリカ対中ロの陣営対立に拡大する、あるいは、(2)NATOの巻き込みが期待薄のため、主戦場をアジアにシフトするといった、判断があったのでしょう。リスト追加が経済制裁の効果を発揮するとは思えませんので、シャオミに対する措置は、ウクライナからの政治的メッセージとして理解されるのです。戦禍はアジアに広がるという・・・。

 本日も、米中対立の緊迫化を受けて、自民党の麻生太郎副総裁は、「戦える自衛隊」への転換を主張したとも報じられました。この言葉、「戦える人民解放軍」を目指して習政権が進めてきた中国の軍制改革を彷彿させます(麻生氏はイエズス会士でもある・・・)。日本国の国土を含むユーラシア大陸の東部が戦場となりつつありますので、各国の国民は、世界権力が仕掛けている三次元対立の構図を賢く見抜くべきではないかと思うのです。

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