万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

SBIホールディイングスが先物取引を再開させた理由

2024年12月19日 11時18分07秒 | 日本政治
 今年8月の大阪堂島商品取引所におけるお米の先物取引の再開につきましては、同取引所の凡そ3割の株を保有するSBIホールディングスの強い働きかけがあったと指摘されています。同取引所と民間の一企業との関係は、市場の運営者と事業者の癒着が生じますので、独占禁止法に抵触する可能性もありましょう。それでは、何故、SBIホールディングスは、お米の先物取引に手を出したのでしょうか。

 お米の先物取引については、既に2011年から試験的に実施されていたのですが、参加事業者が集まらないことを理由に農林水産省が許可を与えず、2023年には一端終了しています。お米の先物取引については、過去においても米価高騰の要因となり、国民生活を苦しめてきた歴史がありますので、農林水産省が二の足を踏むのも当然と言えば当然なことです。ところが、2024年に至って事態は急速に展開し、2024年6月21日には農林水産省は大阪堂島商品取引所におけるお米の先物取引に許可を与えるのです。強引とも言える再開ですので、おそらくその背後には相当の‘お金’が動いたことは容易に推測されます。もっとも、SBI証券は、自らの参加によって米の先物市場が復活したとして恩を着せようとすることでしょう。

 ‘政商’とも揶揄されてきた孫正義氏をトップに頂くSBIホールディングの経営戦略の特徴とは、再生エネ、情報通信あるいは半導体(産業の‘コメ’)といった経済の基幹的な分野への集中投資です。お米もまた、弥生時代より日本人の主食として広く栽培されてきましたので、先物取引を介して価格形成に関与することで、日本国民の食料基盤を押さえようとしたとも考えられます。実際に、昨日の記事で述べたように先物取引が今般の米価高騰を引き起こしているとしますと、お米価格の主導権は、一民間事業者であるソフトバンクに握られてしまったことにもなりましょう。

 さて、SBIの投資傾向が基盤掌握型であり、どこか植民地支配との共通性も伺えるのですが、もう一つ、推理するとすれば、それは、農林中央金庫(農林中金)の巨額損失問題との関連性です。農林中金とは、農業協同組合(JA)、漁業協同組合(JF)、森林組合(JForest)を統括する金融機関であり、純資産100兆円、運用資金の規模は凡そ50兆円ともされます。その農林中金が、今年の5月の決算会見において、外国債権の運用の失敗によって3月期の最終損益で凡そ5000億円の赤字が生じたことを公表しています。翌6月には、2025年3月期の最終赤字が1兆5000億円規模となる見通しを述べたのです。

 同巨額損失については、農協等からの出資による資本増強で対応するとしていますが、この情報が、お米の先物取引において莫大な利益をもたらすチャンスと認識された可能性があります。何故ならば、農林中金とリンケージする農協を中心にお米を高い価格で販売する動機が生まれるからです。農家の所得が増えれば預金額も増えますし、農協が平年よりも高い価格で卸売りをすれば(先物取引の指標となる「現物コメ指数」は相対取引の平均価格・・・)、その増収分を農林中金の増資に充てることもできます。米価上昇が見込まれる状況下にあって買いヘッジを仕掛ければ、相当の収益が期待できるのです。ここに、お米の先物取引市場の復活が急がれた理由があるように思えるのです。

 もちろん、以上に述べてきたことは推測に過ぎませんが、異常なまでの米価高騰は、金融機関や投資家等による投機的動きなくしてはあり得ないようにも思えます。日本国政府は、国民生活を護るためにも、お米の先物取引の問題に真摯に取り組むべきなのではないでしょうか。大阪堂島商品取引所におけるお米の先物取引の許可取り消しも選択肢の一つであると思うのです。

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