万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

ロバート・ケネディJr候補の米軍撤退発言を推理する

2023年05月17日 13時17分44秒 | アメリカ
 2024年に予定されている次期大統領選虚を前にして、アメリカでは、既に熾烈な候補者争いが始まっているようです。現職が有利とは言え、バイデン大統領は高齢に加え、その政策運営にも党内での批判があり、必ずしもその立場が盤石にあるとは言い難い状況にあります。米NBCが公表した世論調査の結果では、回答者の70%がバイデン大統領の再選に対して否定的であったとされます。こうした中、民主党内で注目を集めているのは、ロバート・ケネディJr候補です。

 その名が示すように、ロバート・ケネディJr氏は、かの政治家一族ケネディ家に生まれ、暗殺に斃れたジョン・F・ケネディ氏の甥にしてロバート・ケネディ元司法長官の次男です。同氏が関心を集めている理由は、ケネディ家からの出馬というニュース性のみではありません。同氏への注目度の上昇は、同氏は、伝統的な民主党の基本方針、並びに、それを踏襲するバイデン政権とは真逆とも言うべき政策方針を示したことに依ります。例えば、半ば強制的なワクチン接種やワクチン後遺症についてもナチス的手法として批判しており、バイデン政権とは一線を画しているのです。そして、自らが大統領選挙に当選したならば、全世界から米軍基地を撤退させると言うのですから、驚かされます。

 この主張、共和党のドナルド・トランプ前大統領のものと見紛うばかりです。実際に、スティーブン・バノン氏はケネディ氏を共和党候補者として立候補すべきと主張していますし、同前大統領の政治顧問を務めたロジャー・ストーン氏も、トランプを大統領に、ロバート・ケネディJr氏を副大統領に据える正副大統領構想を明かしています。

米軍については、ロバート・ケネディJr氏は、「軍隊は国を守るという本来の役割に戻るべき。代理戦争をはじめとして、他国を空爆したり秘密工作をすることがあまりにも普通になってしまっている」とする踏み込んだ発言もしています。同発言からしますと、戦争を誘導するための‘秘密工作’がアメリカの手によって頻繁に行なわれていることとなり、いわば陰謀の実在性を認めたことになります。トランプ大統領の口から同様の発言があっても、多くの人々は話半分に聞いたかもしれませんが、政治の世界に精通している政治家一族、しかも、民主党員からの発言ともなりますと、その信憑性は否が応でも高まります。これまでトランプ前大統領を批判していた民主党員も立場がなくなってしまうことでしょう。それでは、何故、民主党員であるロバート・ケネディJr氏は、真っ向からバイデン政権と対峙したのでしょうか。

先ず考えられるのは、アメリカの世論が圧倒的にトランプ前大統領の方針を支持しており、ライバル政党から票を奪うために敢えて類似した政策を打ち出している、というものです。言い換えますと、民主党が自らの政権を維持するための偽装作戦と言うことになりましょう。現行のバイデン路線では次期大統領選挙には勝てないとする判断が、同氏をしてトランプ前大統領の持論とも言える米軍撤退を主張させたこととなりましょう。

第2の推測は、米軍撤退論は、ロバート・ケネディJr氏自身が自らの良心に誠実に従ってアメリカ国民の意を汲む、あるいは、米国民の世論を独自に分析した結果であった、というものです。同氏は、アメリカが超大国として牽引してきた戦後の国際体制の変換を目指し、アメリカ国民の負担を軽減すると共に、同国も他の諸国と同列となる新たな国際秩序を提案したのかもしれません。叔父のジョン・F・ケネディー大統領も父親のロバート・ケネディ元司法長官も凶弾に斃れており、命の危険を顧みずに自らの信じる道を貫こうとするのが、ケネディ家の人々の特徴であるのかもしれません。

そして、第3に推測されるのは、ロバート・ケネディJr氏の真の目的は、アメリカ国民ではなく、むしろディープ・ステート(世界権力)を護ることにあるというものです。何故ならば、同氏は、‘秘密工作’を実行している主体は、アメリカという国家であるとしているからです。この点については、ディープ・ステート論を唱えたトランプ前大統領とはいささかスタンスが違っているように思えます。ロバート・ケネディJr氏は、‘奥の院’とも表現されるディープ・ステート(世界権力)まで追及の手が及ばないように、アメリカに陰謀の罪を着せようとしているとも推測されます。

なお、この点に関連して注目されるのが、ロバート・ケネディJr氏のウクライナ紛争解決策です。同氏は、国境付近のロシア軍並びに核を搭載したミサイルを撤退させ、ウクライナの自由と独立を確保した後、同地帯には国連の平和維持軍をもって平和を保障すべきと述べています。トランプ前大統領は、国連をはじめとした国際機関については否定的な見解の持ち主でしたので、米ロによる首脳会談と言った国家間の外交を舞台とした解決を主張することでしょう。仮にロバート・ケネディJr氏が善意からウクライナ紛争からの撤退を主張しているならば、国際主義者としての民主党のポリシーを継承していることになりますし、ディープ・ステート(世界権力)の利益を慮っているならば、同勢力にコントロール下にあるとされる国連の権威や権限の強化に貢献しようとしているのかもしれません。

また、さらに穿った見方をすれば、同氏は、アメリカを超大国の座から降ろすことで、ロシア、あるいは、中国の優位性を高めようとしているとも考えられます。‘キング・メーカー’を自認するディープ・ステート(世界権力)は、未来の世界をロシアや中国に仕切らせ、自由や民主義といった価値観を葬り去りたいのかもしれないのです。

仮に、同氏が共和党に引き抜かれることなく民主党の候補のままに次期大統領選挙に臨むならば、トランプ候補対ロバート・ケネディJr氏の対決は、米軍撤退後の‘世界構想’をめぐる国家主義対国連主義の構図となる事態もあり得ましょう。何れにしましても、ロバート・ケネディJr氏の米軍撤退発言は、アメリカのみならず、国際社会が重大な転換点に差し掛かっていることを示しているように思えるのです(つづく)。

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